― 健康と太極拳 ―　高齢化社会と太極拳（髙木　康博）

私の妻は、50歳台後半に糖尿病網膜症が元で失明し、現在は要介護４と認定されております。私は妻の介護をしながら日々を過ごしております。いわゆる老老介護です。もちろん訪問看護、訪問リハビリや、ヘルパーさんの助けを受けながら日々を送っております。

そんなある日のケアマネジャーさん（以後ケアマネと略記）との会話です。

ケアマネ：「ご主人さん、片足で立てますか？」

私：「え？ 片足立ちですか？ はい、これでいいですか？」

ケアマネ：「オオ〜、リッパリッパ！ 反対側の足ではどうですか？」

私：「こちらも同じですよ、これでどうでしょう？」

ケアマネ：「オオ〜、スゴイスゴイ、どっちの足でも同じなのですね〜！ フラつきもなく、しっかり立てて、スゴイですね！ 安心ですね！」

私：「はあ〜？ そうなんですか？」

カミサン：「この人、長い間太極拳をやってますから」

私：「はい、そうなんです、週一で、休みがちですけど、もう随分経ちますね。身体を動かして汗をかくのは気持ちが良いですし、頭の中は、仕事などのモヤモヤが空っぽになって、気分転換、リフレッシュにももってこいですね」

ケアマネ：「そうなんですか、道理でフラつきも無く、スッと立っておられる、」「下半身がしっかりしているので安心しました。」

私：「はあ、どういうことですか？」

ケアマネ：「はい、ご主人さんは男性の健康寿命をとっくに過ぎておられるので、事務所でもその点が話題になってて、少し心配してたのです」

私：「ええ〜！ 健康寿命を過ぎてしまった？ もうそんな歳〜！！！？」

ケアマネ：「そうなんです、ご主人様が健康寿命を超えて、この先も健康であり続けることが奥様の介護には是非とも必要なのです。」

私：「そうですか、やっぱりお尻と、太腿の筋肉ですね！」

ケアマネ：「え？ どういうことですか？」

私：「はい、いつかお話しした通り私は大阪府立公衆衛生研究所というところにいました。ほぼ50年前に、上司のそのまた上の方から、将来の日本は高齢化社会に突入し、大変なことになる、ついては今のうちから年寄りの健康について研究を始めよ！ という号令が下りてきたのです。

当時は右肩上がりの経済成長期の真っただ中、私も30を超えた頃、定年は55歳、周りに年寄りは殆んど居ない、そんな状態でした。」

ケアマネ：「そうですね、私は小学高学年くらいかな〜？」

私：「そうですか、可愛いい子だったのでしょうね〜。ところで、その号令は毎年、年度始めになると降りてくるのです、３年も４年も。アイデアを出せ〜！アイデアを出せ〜！ ってね。年寄りの事がわからないのにアイデアなど出せないじゃないか、無理だよ、と思って居ましたが･･･」

「そんなに必要なら、年が寄ると何が起きるのかをマウスで見てみようとマウスの生涯飼育を始めました。マウスの寿命はほぼ２年なので、２年経てば年寄りが見えるのです。」

「人間と同じように、尿もれ、骨粗鬆症、がん、ウイルスや細菌などに弱くなるなどなどが見えてきました。これらは対処法などもあってなんとかなるのですが、お尻と太腿の筋肉が衰えると早く逝ってしまうのですよ」

ケアマネ：「え〜！ 動物でもそうなんですか！ 人も全く同じなのですよ！私は何人も経験しています。太腿と、お尻の筋肉がしっかりしてると、元気に長生きできたのにって思っています。」

私：「そうですか、そんな経験をお持ちなのですね、その経験は貴重ですね〜」

ところで、厚生労働省のまとめによると2019年の日本人の平均寿命は女性87.45歳、男性81.41歳となり、ここ７、８年間過去最高を更新し続けているとのことです。一方、日本健康寿命延伸協会によると「日本人の健康寿命は男性が72.14歳、女性が74.79歳」とのことです。

男女共に健康寿命と平均寿命との間には10年ほどの開きがあります。

健康寿命を平均寿命に近づけるには歩くこと、つまりお尻と太腿の筋肉が大切です。

105歳までお元気だった医師、日野原重明先生もこんなことを言っていました。

「長寿の秘訣は歩くこと、しかも太腿に軽い負荷をかけることが大切です」

私が言うまでもなく、太極拳ってお尻と太腿の筋肉を鍛え、維持することにうってつけですネ。

多くの人が平均寿命を健康に全うするには太極拳がぴったりです。

言い換えれば、健康寿命を引き上げるには太極拳がぴったりです。

健康維持に及ぼす太極拳の効果については９月10日号で中田幸子先生が詳しい文献引用をしています。文献的にしっかりしたことを知りたい方はそちらを是非お読みください。

私は日々の老老介護の立場から太極拳の良さを紹介させていただきました。