― 健康と太極拳 ― 体と水の関係 体の水分量と 1 日の水の出入り(川村 邦夫)
著者プロフィール
川村邦夫
瀋陽薬科大学客員教授
薬学博士
略歴
〇1935年生まれ、東京大学薬学部卒(薬学博士)
大阪公立大学経済学部経済研究科客員研究員 博士(創造都市)
〇日本防菌防微学会名誉会員
〇WHOアドバイザー(医薬専門家委員会)歴任
水は体を健康に保つために極めて重要であることは、ご存知の通りです。しかし、口渇感は、空腹感ほどに感じないために脱水症状を起こすことがあります。運動や体を使う労働をした時には、汗として水分が失われるので、水(水分)の補給が必要となります。適切に(こまめに)水分を補給することが大切です。
1.体の主な「成分」は「水」です。
表1 左欄は私たちの体の中の水分の量を重さの%で表したものです。新生児では80%以上が水分です。成人では60%弱が水分です。この水分は、絶えず食物や飲料として摂取し、不感蒸泄(後述)や汗、尿、呼気などとして体外に排出されます。新陳代謝(体内の古い水を排出し、新しい水を摂取する)しているのです。成人の場合、其の量は2400㎖以上と言われています。成人の体液量は60%弱ですが、高齢者では少なくなっており、50%に近いと言われています。
表1 体の中の水分量(重量%)
体液量 | 細胞内液 | 細胞外液 | |
新生児 | 80〜85% | 40〜45% | 40〜45% |
乳児 | 65〜75 | 30〜35 | 35〜40 |
幼児 | 60〜65 | 30 | 30〜35 |
成人 男性 | 58.2 | 38.2 | 20 |
女性 | 57.8 | 37.2 | 20 |
2 「水」は体のどこにあるか? 細胞内液、細胞外液とは何か?
表1の中央の欄の「細胞内液」とは、組織・臓器・細胞の中にある水分の事です。右側の欄の「細胞外液」と言うのは血液の中の血清や組織・細胞の周りにある水分の事です。血液の中の赤血球は細胞ですから組織・臓器の一種です。
体の水分は毎日約2400㎖が出入りしています。運動や体を使う労働をした時には、「汗」として、これにプラス・アルファ―されるために、「汗」を入れると3000㎖以上になります。毎日、これだけの水を補給しなければなりません。
3 体から失われる「不感蒸泄」(表2、表3)とは何か? 汗とどう違うのか?
体を維持するための水分の主な役割
(1)水は血液として酸素・栄養を必要な部分に届けること、(2)老廃物を集めて体外に排出する事、(3)「不感蒸泄水」(後述)や「汗」として体温を調節する事の3点が主な役割です。
体には運動をした時や気温が高い時には、汗が出て体温を調節するシステムが備わっていることは、良く知られていることです。しかし、基本的には「不感蒸泄」という自然に備わったシステムがあり、絶えず機能しています。「不感蒸泄」と言うのは、皮膚の表面から自然に失われる(排出される)水分や呼気の中の水分の事です。皮膚と呼気から15㎖/kg/日の水が毎日、無意識のうちに体外に排出されているのです。例えば、体重が60kgの人では、「不感蒸泄量」は、15㎖×60kg=900㎖/日 となります。一日に900㎖の水分が自然に排出されているのです。「汗の量」は運動や労働、気温などの条件によって変化するので、この計算には含まれていませんが、実際には、これに「汗」を加えると、3000㎖以上の水分が皮膚表面や尿、便から失われていることになります。
表2 標準成人一日当たりの水分の出納
不感蒸泄 | 900ml | 食物 | 1,000ml | |
尿 | 1,400ml | 飲水 | 1,100ml | |
便 | 100ml | 代謝水 | 300ml | |
計 | 2,400ml | 計 | 2,400ml |
表3 70才の人の一日の水分排泄予想量
不感蒸泄 | 900ml |
尿 | 1,100ml |
代謝水 | 200ml |
計 | 2,200ml |
4 代謝水とは何か?
表2の右下段に「代謝水」とあります。これは摂取した食べ物が体内で分解される時に発生する水分の事です。この量は一日約300㎖と言われています。呼気の中の水分も代謝水の一部に相当します。
5 水の出納
水の出納を見てみますと、水は食物、飲水(茶などを含む)、代謝水などで約2400㎖となります。これに対して排出される水分は、(1)不感蒸泄水、(2)尿、(3)便の3種類と「汗」です。排出される水と摂取する水の量はバランスがとれていなければなりません。
6 体の水分の失われ方
体の水分は、酸素や栄養分の運搬や老廃物の排出、体温の調節など、生命維持に必要な役目を担っています。老廃物の運搬や温度調節に使われた「水」は皮膚、呼気、尿、便として外界に放出されます。こうして失われた「水」は、食物、飲料などによって新たに補充しなければなりません。日常の生活の中でも、水は絶えず「不感蒸泄水」として無意識のうちに失われていますが、暑さや肉体労働をした時には、汗として水分が皮膚表面から失われます。このようにして失われた水は、飲料などで適切に補充しないと、脱水症状を起こし、時には重篤な状態になることがあります。高齢者は体内の水分の不足に感じにくくなっていることがあり、脱水症状を起こして重篤な状態になることが時々報告されています。運動をした時、気温の高い環境にいる時、肉体労働をした時には意識的に水分を補給する必要があります。
ポイント
ポイント1:細胞外液から皮膚を経て常時、水分が無意識に体外に排出されています(不感蒸泄)。運動、温度環境、労働等に対しては、不感蒸泄に加えて「汗」が排出されます。水分を意識的に補充することが必要です。
ポイント2:皮膚の表面積は成人では年齢であまり差が無いと言われています。高齢者は皺が多くなるだけで、体表面積はあまり変わりません。
ポイント3:温度、疲労度、口喝に対する感度が高齢者は低くなると言われていますので、一層注意が必要です。