長拳技能検定《初段》について<レポート「夢中になれた「長拳初段検定」受験/冨田 金義(72歳)」>
ジュニア普及委員会委員長 中村 剛
2022年度後期にあたる本年1~3月には、恒例の【長拳技能検定《初段・1級・2級》】が国内5会場において実施されます。長い間1級が最高級位であった[長拳技能検定資格制度]、2020年度より「初段」が新設され、文字通り[長拳“段” 級資格制度]となりました。
「初段」の課題套路は「国際規定第一套路(以下、長拳Bという)」。現在「国際ジュニア大会」の主に中学生区分の規定套路であり、ジュニア選手にとって「初級長拳→国際規定第三套路(難度動作含む)」へのつなぎの套路として、とても重要な位置付けにあります。国内では「JOCジュニアオリンピックカップ大会」だけでなく、「全日本大会」や「国体」での長拳規定種目としても採用されています。1級までの「カンフー体操」や「初級長拳」が、どちらかといえば普及用の套路であるのに対して、「長拳B」は完全な競技用套路といえます。しかし選手経験者だけではなく、長拳の基本をしっかり学習されている愛好者の皆さんであれば、合格できる判定基準を設定し進めています。特に地方など、長拳専門(特に選手経験者)の指導者が少ない地域では、成人になって長拳を始めた愛好者の方や、子どもらの親がジュニアの指導・育成に頑張っておられる現場が数多くあります。こうした方々の下支えがなくては、今日の普及はなかったと言っても過言ではありません。
長拳は高度な柔軟性が求められ、スピーディで力強く、跳躍動作が含まれているという大きな特徴から、青少年の競技種目というイメージが定着しています。しかし、年齢や体力に応じて無理のない取り組み方をすれば、高齢者にとっても柔軟性や体力の向上といった体作りにつながります。そのシンプルな動きは、体を思いきり伸ばす、力を入れる(発力)といった、簡単に言えば太極拳の概念とは真逆の運動をすることで、力を抜く・ゆるめるといった感覚をより明確に体感でき、定式動作を意識しながら正しい形や動きを体に覚えこませることで、同時に下肢の強化や上下の協調性を高めることなどにも役立ちます。単に爽快感、ストレス発散といった面だけではない効果が期待できます。結果として、太極拳を含む全ての武術種目に通じる手型・手法や歩型・歩法、身法、眼法等の基礎技術の習得にもつながります。
長拳の良さ、愉しさを自ら理解(実感)している指導者でなければ、その愉しさや時に必要な競争意識を子どもらに伝えることは難しいでしょう。また中学生前後の子どもらに対して、「長拳B」の指導を迫られている指導者への手助けにもなるのではと考えています。この「初段」がジュニア選手らだけのものでなく、そういった方々の目標や自身の学習意欲、普段の指導に役立つことになれば、とても意義あるものと考えています。
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今回、昨年度までに「長拳初段」を実際に受験・合格された方の中で、最高齢者である冨田金義さんに、受験のことやこれまでの長拳との関わりについて書いていただきました。冨田さんは71歳(受験当時)で、2021年度の初段検定を受験されました。
レポート 夢中になれた「長拳初段検定」受験
冨田 金義(72歳/名古屋市在住)
「ガハッ!ゼェ~、ゼェ、ゴホッ…!」
[長拳初段検定]の套路試験前半が終わり喘いでいます。体はギリギリでも、何故か心は笑っています。「後半あと半分…、やりきるぞ! 収勢まで!」 「この会場にいられることが嬉しい、まだ燃えるものがあったんだぁ~。本当に嬉しぃー!」
約40年程前…、30過ぎに始めた長拳、今でもやっています。守るものができて「体を鍛えんとイカン!」と思い、何気に練習見学のつもりで(何故か)近所にあった長拳の教室に出かけました。『すぐに帰って着替えて出直してきたら?』と女性の方に声をかけられ、言われるがままに練習に参加することになりました。その日から圧腿・踢腿・基本功…、体の硬い私にとってはなかなかのタメ息ものでしたが、自由な雰囲気の中で武術を好きでやってる人達ばかりの仲間に入ってみたくて入会しました。若い皆さんは大会練習で一生懸命、私には縁のない世界と思いつつただ教えられたことを練習するだけのユル~ィ生徒でいられましたが、体を動かすことの楽しさを少しずつ感じるようになりました。
このノンビリ練習生が40代後半から棍に目覚め、[棍術B]で全国大会に出場、50過ぎまで中年選手として楽しませてもらいました。その後は審判員として全国大会やJOC大会の拳術系種目の執行審判をさせてもらいつつ、60歳で太極拳、そして形意拳を…。そして70歳を超えた昨年、[長拳初段検定]合格を目指す一受験生となりました。ずぅ~っと練習生ですが、ノンビリ生徒が人生の友として長拳と共に歩むことができ、そしてまた大会に臨むような気持ちで練習できる嬉しさは格別です。
その成果でしょうか、今は自分なりに動きが変わった様な気がしています。姿勢、重心の取り方、足の位置や運び方、力の抜き入れ等々気づくことが多々あります。教えてもらっても忘れてしまうことばかりですが、これも「頭の省エネ練習だわ!」と勝手に思い取り組んでいます。先生から指摘されれば「教わった通りに動きたい!」と何度でも繰り返しです。そんな練習によって自分の変化を楽しみに感じたりもしています。長い間、私に付き合わされている先生の寛容なお心に感謝感謝でおります。
○痛・○痛といろいろな○痛と仲良くやっている中、一昨年12月に突然また一つ心臓疾患に出会ってしまいました。術後1ヵ月弱の入院、退院後2ヵ月後には[初段検定]試験が迫る中、「今を逃したら、今後受験する気持ちが戻らないのではないか?」と何故か確信めいたものがありました。集中治療室での幻覚の中、周りの皆に応援されながら長拳で戦っている自分がいて、ワクワクするような不思議な感覚が記憶に残り、そして[長拳初段検定]がその戦いの続編だったような気がして、助けてもらった借りを返さなければとの想い…。
アッという間に套路試験の後半開始!「気持ちは続いている、行ける、最後までやりきる!」気持ちが先走る…、「体よ動け、最後まで!」。演技が終わった瞬間は、頭も心も体も真っ白。でもやりきった充実感がとても心地よいものでした。