「2023年度春季強化合宿」を実施

日本代表内定選手と新しい有望選手たちを中心に強化合宿を実施

(公社)日本武術太極拳連盟は4月29日(土・祝)から5月5日(金・祝)の7日間、東京・日本連盟トレーニングセンターで春季強化合宿を実施しました。本事業は、(公財)日本オリンピック委員会(JOC)選手強化NF事業助成を受けて行われています。

今回の合宿は、国際大会の日本代表内定選手と新しい有望選手たちを中心に選手・コーチ合わせて総勢30人が参加し、5月4日(木)には、参加選手およびコーチを対象に、(公財)日本アンチ・ドーピング機構(JADA)発行のテキスト資料や過去の事例などを挙げ、アンチ・ドーピング講習やコンプライアンス講習も実施されました。

本合宿は競技力向上事業の一環として実施された

本合宿は競技力向上事業の一環として実施された

長拳班の訓練の様子

長拳班の訓練の様子

中田光紀コーチを講師にアンチ・ドーピング講習等を実施

中田光紀コーチを講師にアンチ・ドーピング講習等を実施

2023年度春季強化合宿レポート 選手強化委員会

【目的】

コロナ禍によって中止されていた活動が再開し、新しい年の初めての合宿となる。アジア競技大会、FISUワールドユニバーシティゲームズの代表内定選手と新しい有望選手たちをメインに実施した。プロチームが多い世界の状況は3年前とは様変わりしている。これからの選手に求められる能力は、男子は720°女子は540°の難度をこなすことが当たり前となっている。日本チームは今はまだ出遅れているが、今回行った選手交代で、若い選手が十分な能力を備えて育っている事を確認できた。20年以上のコーチ経験から、世界で通用する一流選手になる可能性を感じる。新人育成に向けたコーチたちの意欲が今後、非常に重要となる。今回の合宿では武術の独特な基本を確認し、新ルールのA組減点をなくす訓練を中心に行った。既に持っている基礎を更に磨き、2か月後の全日本選手権大会を経て続く国際大会で、日本チームが活躍できるよう期待する。2023年度春季強化合宿レポート 選手強化委員会

【成果】

太極拳班

今回は「基本に立ち返る訓練」をテーマに行った。基礎を固めた上で難度動作や套路を行うことが、A組・C組得点の満点に繋がり、更にB組点数を向上させることとなる。

歩法では、単に移動するだけでなく、体重移動の際に足裏からの力を全身に伝えていく意識の再確認を行った。動作中に見過ごされがちな過程動作では、手足の協調性を見直すように指導。地味になりがちな平衡難度「后挿腿低勢平衡」では、下までしゃがみきってから手足を伸ばすというような「魅せ方」、剣では手元ではなく剣先まで意識するように、ピンポイントで細かな意識を学ばせた。発勁動作では、各動作の繋がりやリズムを意識した組合せを行い、迫力やスピードをより一層求めていく必要性を指導。その後の全套で全体の流れを確認した。

前合宿での課題であった「筋持久力と体力の向上」は、何度も套路を通すことによって改善が見られ始めている。曲と動作の協調性、動作の組み合せ方や動き方も、套路を数多く通すことでより確認できている。太極拳種目にとって套路を通す全套訓練は、いろいろな面で効果的であると言える。

長拳班

今年は4年ぶりの大きな国際大会、また世界大会の選抜をかけた全日本大会が開催される。その対策として基本訓練、難度跳躍を重点テーマに置いて、体力面のレベルアップを図り、器械の技術練習も今まで以上に取り入れた。

難度跳躍では、空中姿勢で真っ直ぐの軸を維持できることが最重要である。ある選手は踏み込む際の歪み、別の選手は空中で蹴った後の着地前の歪みなど、人それぞれのクセがある。自覚を持って根気よく今後の訓練にも繋がるように、各人に合わせた修正に取り組んだ。器械種目では、器械に応じた風格やリズム、力の使い方を練習した。中国や他国との技術交流がない近年は、YouTubeを見て中国選手の動きを真似るだけになっている傾向が強い。器械の基本を改めて練習することによって動作の意味、方法を改めて学んだ。

基礎訓練を重視したことと普段より時間、量ともに多い1週間の訓練で、ほとんどの選手が疲労と筋肉痛が回復しないまま最終日の難度跳躍テストに臨んだ。当然テストでは失敗が多く見られたが中には完璧にこなした選手がいて、集中力の違いが明確になった。今回のような練習量を続けることが確実にレベルアップに繋がり、他国のプロチームと対等に競うには必須と伝えた。地元に戻り体が回復した後の練習で今回の経験が活かされることを強く願う。

南拳班

今回の選手はジュニアからシニアに上がったばかりの自選難度競技デビュー前の選手で、南拳の基礎動作、演技力、套路構成、フィジカル面、どれも未熟な状態であった。

基礎力を上げる必要があり、歩型、歩法トレーニング、套路中の動作についての見直しを徹底して行った。南拳の独特な演技力についても、見せ方、動作の武術的な意味を改めて確認しながら、攻防の意識を表現できるように訓練を行った。套路構成については、中国選手を真似たままの状態であったため、路線や動作、リズムを考え直し、各人の向き不向きに合わせた修正を行った。採点競技では自己満足ではない客観的な視点からの戦略が必要になる。大会での評価に繋がるよう、各人の特徴が活きる套路になるようにアドバイスと訓練を行った。

選手たちは若く熱心で、どのような内容にも柔軟に対応ができ、新しい視点からの要求に応えて集中して練習に取り組んだ。全日本に向けて今回の訓練を継続し、彼らの成長した姿に大いに期待したい。

【課題】

日本チームは新旧が入れ替わる大きな機会を迎えている。身体能力が非常に高く、武術のために生まれてきたような人たちがいるのを見て、国際大会で活躍できる一流選手になれるよう、本当にうまく育てたいと願う。中国やアジアのプロチームはコロナ禍の中でも交流を続け、技術面の進化を遂げているが、今の日本は出遅れている。重要な基礎技術、難度は訓練により成長する。少数の可能性ある選手たちを海外研修に派遣する、あるいは国家級の指導者を招き最新の指導を受けて、将来ある選手とコーチたちに情報を伝えてもらいたい。それが近いうちに世界に通用する選手として育つ土台になる。コロナ禍が落ち着いた今こそ早急に考え、コーチ全員でサポートして世界に挑戦していきたい。

太極拳班

武術の基本動作自体は簡単であるが、それを常に意識して身につけている選手とそうでない選手とでは大きな差が出る。なぜこのような練習を行っているのか、という訓練の本質を考えて取り組む姿勢が大事であることを更に理解させていく。

合宿最終日の試演では、ミスを連発する選手が多い中、完璧にこなす選手もいる。この差は何なのかということも、選手・コーチともに課題として取り組んでいかなければならない。

現在、中国の現役選手やコーチ陣が、動画アプリを通じて太極拳の知識や訓練方法などを発信している。選手もコーチも積極的に見て学ぶようにし「技術の情報収集」に取り組むことも必要である。

長拳班

中国を筆頭に各国のプロチームでは720°回転が当たり前の中、日本チームでも同レベルの若い選手が数名育ってきた。まだ軸と着地の安定が未完成であり、これからの訓練が非常に重要となる。高難度の着地には危険が伴うため、体操やフィギュアスケートの選手育成で使用されているような用具の導入も検討の課題と考える。

720°を目指すようになると回転度数ばかりにこだわる傾向がある。身体条件を上げることが先決という現実を忘れて、本来の軸やバランスを無視すると怪我に繋がる認識を選手に徹底したい。今回の中で柔軟性が優れている選手は1割程度、敏捷性でも1割程度と思われた。選手に必要な身体条件をテーマに分け、不足を補う練習内容でそれぞれの苦手部分の克服に繋がるように考えることも必要。

近年は動画で情報を得ることができて大きなメリットであるが、中国選手の動きを見た感じで真似る傾向がある。武術の動作には用法や意味があり、知らないまま形を真似るだけでは武術の動きにならない。一つ一つの動作が持つ本来の意味をしっかり理解し習得することがB組の点数に繋がる。演技レベルを上げるためにも武術の基礎に特化した訓練を続けていかなければならない。

南拳班

武術種目の中でも南拳の技術表現は独特である。武術歴が浅いと当然基礎力不足のため、南拳らしさがまだ身に染み付いていない。根本的な基礎練習を積み重ねることでのみ武術の風格や意識が自然に出てくる。しっかり自覚を持って日々の訓練に臨む必要がある。

難度の完成度については安定感のあるB難度をこなせる現状。国際大会のトップ戦線で戦うためにはC難度の成功率を上げることが要求される。高難度の訓練に取り組み続けるためには、筋力や瞬発力、柔軟性が不足している。フィジカルトレーニングも並行して行い、身体能力の強化が有望選手となる必須の条件である。

以上

2023年度春季強化合宿 参加対象者名簿

No. 種目 性別氏名 ふりがな 所属出身
1 長拳 男子 安良城 基睦 あらき もとよし 大阪府 大阪府
2 今井 真秀 いまい まほ 大阪府 大阪府
3 鎌田 慎ノ介 かまだ しんのすけ 北海道 北海道
4 高  龍大 こう りゅうだい 大阪府 大阪府
5 中田 琉月 なかだ るつき 大阪府 大阪府
6 別當  響 べっとう ひびき 大阪府 大阪府
7 女子 池内 佳奈 いけうち かな 埼玉県 埼玉県
8 池内 理紗 いけうち りさ 埼玉県 埼玉県
9 貴田 菜ノ花 きだ なのは 大阪府 兵庫県
10 中村 里香 なかむら りか 千葉県 千葉県
11 古川 萌華 ふるかわ もか 岩手県 岩手県
12 太極拳 男子 荒谷 友碩 あらや ともひろ 千葉県 千葉県
13 蝦名 冬馬 えびな とうま 東京都 北海道
14 王  駿亮 おう しゅんすけ 兵庫県 兵庫県
15 香取 尚弥 かとり なおや 神奈川県 神奈川県
16 村上  僚 むらかみ りょう 東京都 北海道
17 女子 磯野 水響 いその ひびき 千葉県 千葉県
18 齋藤 志保 さいとう しほ 岩手県 岩手県
19 庄司 理瀬 しょうじ りせ 秋田県 秋田県
20 寺岡 瑠里 てらおか るり 北海道 北海道
21 花野 宏美 はなの ひろみ 兵庫県 兵庫県
22 平田 優花 ひらた ゆうか 埼玉県 埼玉県
23 南拳 男子 松川 爽人 まつかわ あきと 大阪府 石川県
24 宮森 創大 みやもり そうた 北海道 北海道
役員・コーチ(6) 孔  祥東 こう しょうとう 選手強化委員会 委員長
前東 篤子 まえひがし あつこ 選手強化委員会 副委員長
孫  建明 そん けんめい 選手強化委員会 ヘッドコーチ
丹井  均 たんい ひとし 同 コーチ
勝部 典子 かつべ のりこ 同 コーチ
中田 光紀 なかた こうき 同 コーチ