「第19回アジア競技大会・武術太極拳競技」結果報告(中国・杭州)

2018年以来となるアジア最大のスポーツの祭典に出場

「第19回アジア競技大会」は、アジアオリンピック評議会(OCA)主催により、9月24~28日(全体日程は9月23日~10月8日)に中国・杭州で1年の延期を経て開催され、45の国・地域から11,831人の選手が40競技481種目に出場しました。

武術太極拳競技にとって最高峰となる大会には、日本連盟から男女計6人の代表選手と孔祥東監督、前東篤子コーチ、竹中保仁審判員を派遣しました。

日本代表選手団は、直前合宿を経て、20日(水)に日本を出発し、万全の準備を整えて、24日(日)からの競技に挑みました。

大会の詳細は次のレポートをご覧ください。

武術太極拳最高峰の舞台に挑んだ日本代表選手たち

武術太極拳最高峰の舞台に挑んだ日本代表選手たち

アジア最高峰の大会にメディアの注目も集まる

今回のTEAM JAPANの合言葉として『限界を超え、勝利の先へ』というスローガンを掲げ、選手772人、役員366人、総勢1,138人で臨み、全体で52個の金メダル、67個の銀メダル、69個の銅メダル、合計188個のメダルを獲得しました。

武術太極拳競技もテレビや新聞など各メディアでも取り上げられました。また、TBSアジア大会応援団に就任された元プロ野球選手・杉谷拳士さんに体験取材をしていただき、テレビやYouTubeなどで紹介されるなど、注目を集めました。

大会成績一覧はこちらに掲載します。

杉谷拳士さんによる体験取材の様子

杉谷拳士さんによる体験取材の様子

左から前東コーチ、池内選手、貴田選手、齋藤選手、荒谷選手、今井選手、安良城選手、孔監督

左から前東コーチ、池内選手、貴田選手、齋藤選手、荒谷選手、今井選手、安良城選手、孔監督

会場を彩るライティングやレーザーマッピング

会場を彩るライティングやレーザーマッピング

監督レポート:孔祥東(選手強化委員会委員長)〈事前準備など〉

アジア大会2018ジャカルタ・パレンバンでは総合2位、総合5位3人、7位、総合9位の結果を得た。男子選手全員がミスのない演技であったがメダルは1名のみ、後は5位、7位で演技レベルの得点差が順位となった。女子選手2名は自らのミスが減点となり、5位と9位。この結果からの問題点は、演技レベルと、難度の完成度の不足による減点であった。また常勝の中国選手は高難度を既に楽々とこなしており、今後は男女ともに難度レベルを上げないとメダル圏内に入れない予感があった。高難度に挑戦し安定してこなせることを目標にフィジカル面の強化を最重要視し、コロナ禍により通常練習が行えない期間にはウエイトおよび体幹トレーニングを主に行った。これにより難度だけでなく技術の向上にも繋げ、演技の表現力向上を目指した試行錯誤を続けた。

2023年3月に選考会を実施し、2022年に開催予定であった杭州アジア大会の太極拳種目代表候補2人は引き続き代表に決定した。太極拳種目は技術の習得に時間が必要であり、太極拳選手にとって開催の延期は、技術の研鑽と未完成であった難度の精度を高めることに繋がり有利に働くと考えた。長拳種目の選手は高難度の習得者を選考した結果、メンバーを刷新することになった。またアジア地域では南拳種目に力を入れている国々が多く非常に高レベルの競い合いとなる。実施競技8種目に対し派遣選手は6人のため、現状検討の結果この種目へのエントリーは見送った。長拳以外の競技は2種目の得点を合計した総合成績により順位が決定される。通常の大会では1日1種目の実施であるが、今大会では1日に2種目の競技が行われるため、試合当日を想定して午前に1種目、午後にも1種目という今までにない練習スケジュールで大会に備えた。

現地では、メディカルルームでのケア、G-Road Stationの存在が選手に与えた影響が非常に大きかった。以下は選手からの声の抜粋。○大会前に足首、腰、腿裏を相次いで傷めてしまい不安を抱えて入村したが、メディカルルームでの毎日のケアのおかげで完治に近い状態まで戻せた。佐藤トレーナーのケアがなければ満足に動けなかったかもしれない。○入村後の練習時に腰を傷めて動けなくなったが、試合までの3日間和田トレーナーのケアで十分に動けるまで回復でき、当日も帯同いただいたことでまともな状態で出場できた。○慢性的な手首の痛みがあるため器械の操作に不安があり緊張があった。佐藤トレーナーのケアで症状が寛解し1日2種目の当日に臨めた。○毎日湯船に浸かってリフレッシュする習慣があり、ホットバスを利用できたことが心身のコンディショニングに非常に役立ち、試合ではしっかり集中して臨めた。○試合まで2日間のケアを受け、堀田トレーナーは股関節、和田トレーナーの腰の調整で当日の最高のパフォーマンスに繋がった。自覚はなかったが調整により体が非常によく動き、ケアの大切さに気付いた。○選手村では食事が合うか心配があったがG-Road Stationで和食や負担なく栄養補給できるように準備いただき、食事面で問題を起こすことなく調整できた。

〈大会総評〉

大会では、チーム最初の競技である男子長拳に最年少18歳の安良城基睦選手が出場した。初のシニア大会出場であったが、中国を筆頭にアジアの強豪国を相手に、日本人選手初となる最高レベルのC難度をクリアしてライバルを抑え4位入賞と大健闘した。同日午前の女子太極拳と午後の女子太極剣には、世界選手権2大会連続でメダル獲得した実力者、齋藤志保選手が出場した。課題であった難度全てを完璧にこなし、柔軟性を活かした伸び伸びとした演技を見せたが、太極拳6位、太極剣7位の結果、総合6位入賞の成績であった。2日目には女子長拳の競技が行われ、女子ながら2種類のB難度をこなす跳躍力が持ち味の池内佳奈選手が出場。入村後に腰を傷めながらも回復を遂げ、初のシニア大会出場が叶ったが、2つ目の難度で着地を失敗し大きな減点のために9位となった。同日午前には男子太極拳、午後の男子太極剣には、前回大会で総合2位を獲得した荒谷友碩選手が出場。磨いて来た表現力を発揮しノーミスの力強く落ち着いた演技を見せた。それにも関わらず、太極拳12位、太極剣5位の結果、総合5位入賞の成績となった。競技4日目には長拳器械総合種目の試合が行われ、男子刀術と棍術に今井真秀選手、女子剣術と槍術に貴田菜ノ花選手が出場した。今井選手は高い跳躍力を持ち、安良城選手と同様にC難度を取り入れたスピード感のある演技が本来の特徴だが、刀術ではC難度の着地を失敗し11位、棍術ではC難度が認定されずに減点が大きくなり11位、総合11位となった。大会前からの不調で仕上げが十分行えなかったことが悔やまれる。貴田選手は正確な技術と柔軟性を活かした演技が身上であり、B難度をこなす力もある選手だが、剣術では難度の着地に失敗して10位、槍術ではキレのある演技で実力を発揮し5位となったが、総合8位の結果に終わった。1種目目では緊張が大きく演技への影響が推察されて、メンタルトレーニングへの取り組みも今後の課題となる。

日本チームのエース、荒谷選手、齋藤選手にはメダルの期待がかかっており、試合では実力が十分に発揮されたノーミスの演技であったが総合6位と5位の結果となった。今大会では演技レベルの得点が同点になることが多く見られた。同点の場合の順位決定は、成功した難度が高レベルの選手が上位になる。プロチームのアジア勢は男子も女子もC難度を成功させており、日本チームの男女ともにB難度という内容に勝り、これが結果になった。高難度を演技に組み入れること、その成功率を上げ確実にこなせるような訓練が行えるようフィジカル面をさらに強化させることが急務である。動作の緩急、力とスピードの変化を大きくといった魅力ある表現に演技のレベルを上げることの成果は確実に見られ、今後も追求を続ける。仕事や学業との両立という制限の中、オーバーワークによる怪我には配慮しながら精一杯取り組んでいく。

結団式で笑顔を見せる日本代表選手たち

結団式で笑顔を見せる日本代表選手たち

会場に応援に来てくださった谷本歩実副団長と

会場に応援に来てくださった谷本歩実副団長と

大会最終日に選手全員で。一つの大会を乗り越えた戦友であり、同じ武術を練習する仲間であるという一体感を感じる

大会最終日に選手全員で。一つの大会を乗り越えた戦友であり、同じ武術を練習する仲間であるという一体感を感じる

参加選手の感想(一部抜粋)

安良城基睦選手「今大会に向けパワーが必要だと思ったので、筋力トレーニングを重視して行いましたが、海外のフィジカルの強さに圧倒されたので、私も負けないようにフィジカル強化を目指して頑張ります!今回とても惜しい結果となったので、次の大会でリベンジしたいと思います!」

齋藤志保選手「コロナの期間、国際大会がなく、海外の選手と久しぶりに会えてとても嬉しかったです。太極拳動作の熟練に関して、まだまだ練習が足りませんでした。本番では緊張により動きが硬くなり、練習でできていたことが本番でできない箇所がありました。今後も練習を積み、技術の底上げをしたいと思います。」

池内佳奈選手「本大会での大きなミスを通じて、技術だけでなくメンタル面も私自身の大きな課題であると感じました。2026年のアジア競技大会でメダル獲得ができるよう技術面、メンタル面の両面からの強化をしていきたいと考えています。また、仕事と武術の両立の仕方は試行錯誤を繰り返しながら、自分にとっての正解を見つけていき、限られた時間の中でいかに最大限能力を上げていくかにこだわって取り組んでいきたいです。」

荒谷友碩選手「成功率をあげるため体幹の強化、演武の表現力向上のために音楽との調和や身体の使い方などを試行錯誤して大会に臨みました。また、大会1ヶ月前に3週間中国で集中的に練習をし、技術、体力ともに向上をはかりました。次に向けて、太極拳の技術の向上や、より難度の高い動作を完成させること、また音楽との調和をさらに追求することで、演技レベルの向上をはかりたいと思います。」

今井真秀選手「器械種目のスピードに関しては、代表内定時より上がったと思いますが、他国の選手と比較するとまだまだ足りませんでした。高難度の跳躍に関しては、怪我につながってしまい本番で成功させることができませんでした。体の調子を大会に合わせることができなかったことが、今大会一番の反省点だと思います。」

貴田菜ノ花選手「ボランティアの皆さんの笑顔がすごく素敵で、癒されました。沢山のボランティアの方のおかげで大会が成り立っていると感じました。社会人一年目でバタバタの毎日でしたが、比較的毎日練習時間を確保することができました。プロ勢に勝つにはこのままでは足りないと感じています。リズム、力の抜き方、跳躍の着地のタイミング全てをレベルアップさせて、次の大会に臨みたいです。」

「第19回アジア競技大会・武術太極拳競技」日本代表選手団名簿

人数性別氏名所属・出身出場種目と成績
1男子荒谷 友碩千葉県連盟・千葉県太極拳・太極剣 総合5位
2安良城 基睦大阪府連盟・大阪府長拳4位
3今井 真秀大阪府連盟・大阪府刀術・棍術 総合11位
4女子齋藤 志保岩手県連盟・岩手県太極拳・太極剣 総合6位
5池内 佳奈埼玉県連盟・埼玉県長拳9位
6貴田 菜ノ花大阪府連盟・兵庫県剣術・槍術 総合8位
7監督孔  祥東選手強化委員会 委員長
8コーチ前東 篤子選手強化委員会 副委員長
9審判竹中 保仁審判委員会副委員長・国際審判員

 

大会期間中にアジア武術連盟(WFA)の総会を開催

大会に合わせて、アジア武術連盟(WFA)の第18回となる総会が開かれ、日本連盟から岡﨑温名誉副会長、近藤重和常務理事、長江一将理事兼事務局長が出席した。

会議では各業務報告が行われたほか、会則の改定、来年度の国際大会の提案などが承認されました。

最後に執行委員を退任される岡﨑温名誉副会長には永年の功績が称えられ、感謝状が贈られました。

また、新たに近藤重和常務理事が新執行委員に選任され、谷川氏が伝統武術委員会副主任に継続して選任されました。

感謝状を受け取る岡﨑温名誉副会長

感謝状を受け取る岡﨑温名誉副会長

アジア連盟総会参加者で集合写真

アジア連盟総会参加者で集合写真