「第5回東アジア競技大会 武術太極拳競技」

第5回東アジア競技大会(2009/香港)武術太極拳競技
12月11~ 13日 7カ国・地域から160人が参加

最精鋭の大会で 銀1(市来崎),銅1(中田)
今年11月の「広州アジア大会」に課題

【掲載:2010年01月15日】

■ 開会式が盛大に 12月4日夜 IOCロゲ会長も出席
 「第5回東アジア競技大会」の開会式が12月4日夜、香港の香港文化センターに観客席を海上に特設舞台を設けるという豪華で華やかな構成のなかで盛大に挙行された。
 開会式にはIOC(国際オリンピック委員会)ロゲ会長夫妻も出席、中国国務委員の劉延東女史の開会宣言でスタートを切った。
 会場は日本や参加各国・地域の一部選手と内外の招待客で賑わった。アジア武術連盟(WFA)を代表して村岡久平日本連盟副会長が出席した。
 大会参加国は日本、中国、韓国、朝鮮、中国香港、中華台北、中国マカオ、モンゴル、グアムの9カ国・地域。武術太極拳など22競技・262種目に、選手3000人が出場した。

銀メダル(男子長拳)を掲げる市来崎大祐選手(左2)表彰式で

■ 日本は男女8選手が出場
 「第5回東アジア競技大会 武術太極拳競技」は、12月11日~13日に香港の「西区公園体育館」で挙行され、東アジアの7カ国・地域から160人の選手と関係役員が参加した。
 東アジア大会は、東アジア各国・地域のオリンピック委員会が代表選手団を派遣し、4年に一回開催されている。第1回大会が1993年に上海で開催され、1997年大阪、2001年プサン、2005年マカオと続いている。武術太極拳競技は、第1回上海大会から正式競技種目として実施されている。今大会では、中国、日本、韓国、中国マカオ、モンゴル、中華台北、中国香港の7カ国・地域が参加した。
 大会は、套路競技男女各6種目、男女計12種目(男子=①太極拳・太極剣総合、②南拳・南棍総合、③長拳、④刀術・棍術総合、⑤剣術・槍術総合、⑥対練、女子=①太極拳・太極剣総合、②南拳・南刀総合、③長拳、④刀術・棍術総合、⑤剣術・槍術総合、⑥対練)と、散打競技男女計7階級(男子5階級、女子2階級)が実施された。套路競技には6カ国が参加し、散打競技は7カ国が参加した。日本は套路競技のみに参加した。
 競技運営は、東アジア競技大会組織委員会と香港武術聯会による周到な準備体制のもとで、極めて円滑に運営された。運営スタッフには、香港の多数の社会人や学生ボランティアの他に、キャセイ航空の客室乗務員が多数参加して大会期間中に各チームの接遇に当たるなど、万全の運営が行われた。
 次回大会は、4年後の2013年に中国・天津市で開催される。

◎世界最少規模、最精鋭の武術競技大会:
 「アジアオリンピック評議会(OCA)」に加盟しているアジア45カ国・地域のなかで、「東アジア」は前記7カ国・地域に朝鮮、グアムを加えた9カ国・地域数で、国・地域数が他のアジアゾーン(東南アジア、西アジア、南アジア、中央アジア)のなかで最少であるにもかかわらず、武術太極拳は世界で最強の中国に、香港、マカオと、中華台北、日本、韓国が加わった、技術レベルが最も高い地域であり、「東アジアを制すれば世界を制する」ことになる。
 また、世界武術選手権大会やアジア武術選手権大会では、套路11種目、男女計22種目の単独種目で競技が行われる(金メダルが22個)が、本大会のような国際総合スポーツ大会では、種目数=メダル数が約半分に限定されるために、競争がさらに熾烈なものとなる。

◎日本の戦績と技術課題:

1)出場種目:
日本チームは、谷川大監督、孫建明、前東篤子両コーチのもとで、8人の選手が次の種目に出場した。
=男子選手:
太極拳・太極剣総合=①田村良太(東京都連盟)、②関屋賢大(大阪府連盟)、南拳・南棍総合=③中田光紀(東京都連盟)、長拳および刀術・棍術総合=④市来崎大祐(大阪府連盟)
=女子選手:
太極拳・太極剣総合=⑤宮岡愛(神奈川県連盟)、⑥佐藤直子(神奈川県連盟)、長拳および剣術・槍術総合=⑦山口啓子(大阪府連盟)、⑧森本閑(大阪府連盟)

●参加国・地域 メダル獲得数(散手種目を除く)

順位 国・地域名
1 中 国 6 1 0 7
2 中国香港 5 3 3 11
3 中国マカオ 1 5 4 10
4 中華台北 0 2 4 6
5 日本 0 1 1 2
6 韓国 0 0 0 0
  12 12 12 36

2)メダルは銀1、銅1に終わる:
 4年前に開催された「第4回東アジア競技大会・マカオ」は、「新国際競技ルール」が初めて実施された大会であったが、日本は「銀2、銅3」を挙げて健闘した。また、1か月余り前にカナダ・トロントで行われた「第10回世界選手権大会」では、「金1、銀5、銅1」を獲得し、日本は参加73カ国・地域中で5位の成績を挙げた。「カナダ世界選手権」で「1・5・3」のメダルを獲得した7人の選手のうち5人の選手が今大会に参加した(中田、田村、宮岡、山口、市来崎)。これらの選手は、カナダから帰国後気をゆるめることなく、ただちに中国で数週間の特訓を受けるなどして今大会に臨んだ。
 今大会の戦績の特徴は、男子長拳の市来崎選手を除く他の選手のほとんどが、2種目出場のいずれかの種目で、大小のミス(バランスミス等)を犯したため、2種目の合計得点で3位入賞に届かなかったことである。
 「カナダ世界選手権」について本誌(2009年11月号No.240)で報じたように、現行競技ルールでは、跳躍→着地→静止などの難度の高い動作が要求され、わずかなバランスミスで0.1点減点になれば、入賞圏外となる。カナダ大会で1人の中国選手がミスにより入賞を逃したが、今大会でも、女子太極拳と女子剣術で中国選手がミスによる減点で、単独種目では入賞圏外となった。
最終日に行われた女子太極拳では、中国選手がミスを犯したのにたいして、日本の2選手はノーミスで立派な演技を行い、宮岡1位、佐藤2位の順位であった。しかしながら、宮岡は1日目に行われた太極剣で大きなバランスミス減点で最下位となっていたため、2種目総合でも5位に終わった。
女子剣術では、3番目に出場した中国選手が大きなミスで後退したが、続く4番目の山口、5番目の森本も連鎖反応のように大きなミスを犯して、さらに下位の得点となり、中国選手の失敗に乗じることができなかった。
 男子選手のうち市来崎選手は長拳、刀術、棍術の3種目でノーミスであったが、他の選手はいずれかの種目で大小のミスが出現した。カナダ大会のような単独種目表彰の大会であれば、2種目または3種目に出場して、1種で失敗しても、他の種目でメダルを挙げることができるが、今大会では、長拳以外はすべて、2種目総合のメダルであったために、このような失敗が戦績に影響を与えた。
 カナダ大会と今大会に出場した代表選手は、全員が代表選手として精一杯のトレーニングを積み、万全を期して参加したにもかかわらず、このような結果に終わった。しかしながら、本大会で各選手は、ミスを犯した後で気を取り直し、精神を集中して調整を行い、次の種目ではノーミスで順位を上げた。このことは、大いに評価されるものであった。一方、ミスが多発した原因を分析し、今後の訓練量の確保、訓練の質の向上を図り、技術課題に取り組むことが急務となる。
 カナダ大会と今大会を経験して、日本チームは貴重な経験と課題を得ることができたと言える。

3)今年のアジア大会に向けて:
 今年11月に中国・広州市で「第16回アジア競技大会」が開催され、武術太極拳競技は11月13~17日の5日間にわたって「南沙体育館」で挙行される。この「広州アジア大会」では、さらにアジア全域からの強豪国が加わる。套路競技は、男女各4種目、男女計8種目(男子=①太極拳・太極剣総合、②南拳・南棍総合、③長拳、④刀術・棍術総合女子=①太極拳・太極剣総合、②南拳・南刀総合、③長拳、④剣術・槍術総合)で、メダル数は本大会よりさらに制限され、数段と厳しい競争となる。散手競技は、男子5階級(56kg、60kg、65kg、70kg、75kg)と、女子2階級(52kg、60kg)が行われる。 近年の国際大会では、各国審判員などに、日本選手の技術の正確さ、各種目の特徴と風格の表現力(特に太極拳)などで比較的高い評価が定着してきている。日本選手とコーチ陣は、今大会の戦績を分析したうえで、質量ともにレベルアップする訓練体制を敷いてゆくことが求められる。本大会で得た経験を糧として、力を蓄えなければならない。日本連盟選手強化委員会と東西選手強化委員会のみならず、都道府県連盟と加盟団体などのバックアップが求められる。

◎大会役員を派遣:
 村岡久平日本連盟副会長がアジア武術連盟(WFA)事務総長として大会に参加し、川崎雅雄理事が大会副総審判長を、石原泰彦理事が大会仲裁委員会主任を担当した。
また、竹中保仁国際審判員と三船英国際審判員を帯同審判員として派遣した。

(石原泰彦理事記)

空港で香港武術協会の出迎えを受ける日本代表チーム