「第12回世界武術選手権大会」(マレーシア)詳細情報レポート

クアラルンプール 73カ国・地域から860人が参加

金2(大川,阪),銀4(内田,中田,市来崎,大川), 銅2(佐藤,山口)で日本選手大活躍

【掲載:2013年12月17日】

国際武術連盟(IWUF)が主催し,マレーシア武術連盟主管による「第12回世界武術選手権大会」が,10月28日11月6日にマレーシア・クアラルンプール市のバドミントンスタジアムで開催され,73カ国・地域から860人の選手が参加した。

10月31日夜,同市内の大規模イベント会場で1000人を超す参加者による開会式が盛大に行われ,式典に続いて多彩なアトラクションが披露された。

大会は,套路競技11種目(太極拳,太極剣,南拳,南刀,南棍,長拳,剣術,刀術,槍術,棍術,対練)の男女計22種目に,国際第三套路(太極拳,南拳,長拳)の3種目男女6種目を加えた28種目の過去最多種目数で実施された。

散打競技は18種目(男子11階級,女子7階級)で実施された。日本は套路競技に男子6人,女子4人が出場した。また,散打競技では男子48kg級,52kg級,56kg級で3人が出場した。

日本選手団は孫建明監督,前東篤子コーチ,孔祥東コーチ,高山宗久コーチが率いる男女計10人の代表選手が套路競技に出場した。

・男子太極拳・太極剣: 関屋賢大(大阪府連盟)
荒谷友碩(千葉県連盟)
・女子太極拳・太極剣: 内田 愛(神奈川県連盟)
佐藤直子(神奈川県連盟)
・男子南拳・南刀・南棍: 中田光紀(東京都連盟)
・女子南拳・南刀・南棍: 阪 みさき(大阪府連盟)
・男子長拳・刀術・棍術: 市来崎大祐(東京都連盟)
岸 涼介(大阪府連盟)
・男子長拳・剣術・槍術: 大川智矢(東京都連盟)
・女子長拳・剣術・槍術: 山口啓子(東京都連盟)

散打競技は,田村卓也監督,上村利一コーチのもとで,男子48kg級に上村昂輝,52kg級に秦文也,56kg級に得能宏之(いずれも東京武術散手倶楽部)が出場した。

第12回世界武術選手権大会日本代表選手団(套路)

◎新旧勢が活躍,套路は参加国中4位の活躍:

套路競技は,11月1日~4日に,午前(9:00開始),午後(16:00開始)の日程で,第1,第2コートで同時に行われた。散打競技も,同期間の午前,午後,夜間に実施された。套路競技と散打競技が同じ会場で同時並行して実施される過密日程であった。

第1日目午後に,男子南拳で中田選手が2位銀で,日本チームの最初のメダルを獲得した。2日目は,男子剣術で,国際大会初出場の大川選手がマレーシア選手と同点ながら得点ルールに基づいて見事,1位金を挙げた。

同日には,男子棍術の市来崎選手が2位銀,女子剣術の山口選手が3位銅を挙げた。また,女子太極拳で佐藤選手が3位銅を獲得した。佐藤選手は長年国際大会に出場しながらメダルに届かなかったが,怪我を克服して今大会で初めてのメダルを獲得した。同選手の努力を讃え,祝福したい。

日本チームは,大会2日目が終了した時点で金1,銀2,銅1と,好スタートを切った。


男子剣術1位と槍術2位の大川智矢選手(中)

大会会場のクアラルンプール・バドミントンスタジアム手前が套路コート,奥が散打のコート


女子南棍1位の阪みさき選手(中)

3日目の日本選手は,それぞれがバランスミス等で,メダルに届かなかったが,4日目の午前と午後の競技では,女子南棍で阪選手が国際大会2度目の出場で殊勲の1位金メダルを手にした。

女子太極剣では,内田選手が過去の国際大会で示してきた実力を遺憾なく発揮して堂々の2位銀を獲得した。女子太極拳種目は,中国,日本以外に,ライバル国のインドネシア,ベトナム,中華台北,中国マカオ,マレーシア,韓国等がベテランのトップ選手を揃え,今大会でも熾烈なトップ争いが展開された。

内田選手は,2日目の太極拳でわずかなバランスミスで7位に後退したが,それを補う佐藤選手が好演武で銅メダルを確保した。

内田選手は太極剣では,ライバルのインドネシアのリンズウエル選手と競り合った結果,僅差で2位となった。次の対戦での勝負を期待したい。

今大会の日本代表選手10人のうち,6人は代表歴7年以上のベテラン勢である。そのなかで,男子南拳の中田,長拳の市来崎,女子長拳の山口の各選手は代表歴の実績のもとで,メダルを獲得して実力を示した。特に,男子長拳種目は参加選手が60人以上の最多人数で競われる種目であり,そのなかでメダルを獲得するのは至難の技である。この種目で実力を示した市来崎選手をはじめ,岸選手,大川選手の健闘を讃えたい。

しかしながら,これらのベテラン選手も,2位,3位を獲得した種目以外の種目では,バランスミス等で入賞圏内から外れた結果となり,日本選手の技術的課題を示す形となった。

今大会では,初参加または2度目の参加組(荒谷,阪,岸,大川)の健闘が目立った。金メダルの大川,阪,両選手の活躍は予想を超えたものであった。両選手の奮闘に拍手を贈りたい。

また,荒谷選手は国際大会デビュー戦で,岸選手は7月のコロンビア・カリ大会(ワールドゲームズ)に続いて2回目の国際大会であったが,それぞれ,好演武で乗り切った。今回の参加を通じて,世界での戦いの厳しさを十分に教訓にして訓練に励み,今後の活躍に期待したい。

日本チームは,套路競技のメダル獲得数で,参加国中4番目の好成績を挙げた(別表を参照)。

散打競技の日本代表3選手は,残念ながら,いずれも初戦に敗退した。


女子太極剣2位
内田愛選手

男子棍術2位
市来崎大祐選手

男子南拳2位
中田光紀選手 

女子太極拳3位
佐藤直子選手

女子剣術3位
山口啓子選手

 

写真はOLI HAU OLI Photo Office Co.,Ltdの提供

第12回世界武術選手権大会 日本代表選手団成績
  氏名 都府県連盟 順位

関屋 賢大 大阪府 太極拳6位・太極剣12位
荒谷 友碩 千葉県 太極拳10位・太極剣8位
中田 光紀 東京都 南拳2位・南刀14位・南棍11位
市来崎大祐 東京都 長拳23位・刀術17位・棍術2位
岸  涼介 大阪府 長拳12位・刀術9位・棍術13位
大川 智矢 東京都 長拳14位・剣術1位・槍術2位

内田  愛 神奈川県 太極拳7位・太極剣2位
佐藤 直子 神奈川県 太極拳3位・太極剣5位
阪 みさき 大阪府 南拳6位・南刀11位・南棍1位
山口 啓子 東京都 長拳4位・剣術3位・槍術5位

 

参加国・地域別 獲得メダル数(套路種目)

順位 国・地域名 合計
1 中国 10 0 0 10
2 マレーシア 4 5 4 13
3 中国マカオ 3 2 2 7
4 日本 2 4 2 8
5 中国香港 2 3 2 7
6 ベトナム 2 3 1 6
7 韓国 1 2 3 6
8 インドネシア 1 1 1 3
9 ウクライナ 1 1 0 2
9 シンガポール 1 1 0 2
11 イラン 1 0 3 4
12 中華台北 0 2 3 5
13 イタリア 0 1 1 2
13 アメリカ 0 1 1 2
13 フィリピン 0 1 1 2
13 ロシア 0 1 1 2
17 トルコ 0 1 0 1
18 オーストラリア 0 0 1 1
18 カザフスタン 0 0 1 1
18 フランス 0 0 1 1
合計 28 29 28 85

 

◎競技役員,国際連盟役員などを派遣:

本大会には,石原泰彦日本連盟理事が大会仲裁委員会主任を務め,中村剛国際審判員が日本チーム帯同審判員として審判業務を担当した。

大会期間中に開催された国際武術連盟の諸会議には,村岡久平日本連盟副会長・国際連盟理事,岡﨑温日本連盟常務理事・国際連盟市場開発委員会委員,石原泰彦日本連盟理事・国際連盟技術委員会委員が出席した。

(記:石原泰彦日本連盟理事・事務局長)

今大会の総評・報告孫建明監督(日本連盟選手強化委員会ヘッドコーチ)

今大会には世界73カ国・地域から約860人の参加があり,国際第三套路男女の「太極拳・南拳・長拳」が新たな種目となり,男女あわせて6種目が増え,過去最大の規模で開催された。世界ではプロチームが増え全体のレベルが高くなっている中で,日本チームは金2個,銀4個,銅2個と合計8個のメダルを獲得しこれまでで最高の成績を挙げた。アマチュアの日本選手が好成績を残したことで各国のコーチ・審判からは大きな評価を得た。

日本武術太極拳連盟の本部研修センターが設立されてから,プロに負けない優れた環境,条件が整ったこと,毎年選手,コーチが中国に訓練に行き,一方で中国の優秀なコーチ,一流選手を日本に招待して,プロの最先端の指導法や練習内容を経験することにより成長したこと,ジュニア育成にも力を入れ世界ジュニア大会などに積極的に参加し経験を積ませて来たこと等の成果が相まってアマチュアながらもレベルを上げ続け歩んで来る事ができた。選手達も大学に通いながら,あるいは武術中心の生活をするためにアルバイトなどで生計を立てながら努力し,武術太極拳を支えていただいている方々やサポートくださっている連盟スタッフ方の応援に応えるように,選手,コーチが一丸となった結果,今年の東アジア大会から2大会続けて金メダルをとる好成績にがった。

現在,年齢の若い選手をチームに加える国が増えつつあり,日本チームは世代交代が遅れているのではないかという声が聞こえている。プロの選手は20歳前後で最盛期を迎え,20代後半には引退するのが一般的だが,日本の選手が成長して一番の安定期を迎えるのは24~28歳頃になる。プロの選手は幼少期より訓練を始め,難度動作も日常的に訓練しながら成長するが,日本のジュニア選手は各教室での練習が主となり,武術選手としての細かいトレーニングが足りず,身体能力が低い状態で18歳頃から難度競技に転向するため,難度動作の習得には大きな壁となっている。

アマチュア選手はまず日常生活がある上での訓練となり,難度動作ができるようになるには早くても3年~4年,またはそれ以上の訓練が必要で様々な困難が伴う。そのためプロよりも成長が遅くなってしまい,チームの年齢が高い状態になっている。その中で日本チームも今大会は若い選手を加え,初出場の大川,荒谷,国際大会2回目の阪が初めての世界大会で金メダルを獲得,よい成績を収めたことで,日本も確実に世代交代が進んでいることを表した。

今回の大会では選手のサポートは3人のコーチ(孔・前東・高山)に任せて,私は全ての試合と世界中の選手を見る事ができた。監督として各国の動作規格・技術レベル・身体能力を分析した結果,日本チームは身体能力・メンタルを鍛え上がることが非常に重要だと確信した。

大会の地元マレーシアチームは半年間,中国福建省プロチームで訓練し非常に高い技術を持っている。しかし確実に金メダルを獲るとマスコミから評判であった選手が大きな失敗をして入賞に至らず,常に高レベルで競い合う男子太極剣でさえ,31人中1人だけがノーミスで,他の全員の選手にミスが出現する結果となった。傾向としては難度の着地の問題が大きく,身体能力・メンタルの未熟さが原因と思われる。

これまで日本チームは,技術レベルを上げることで各国から高い評価を受けてきたが,今後は高い技術レベルでさらに身体能力を高めることが,国際大会で活躍するための重要なポイントとなる。現在,日本チームは週に5日,1回2時間程度の強化訓練を行っている。アマチュアとしての練習時間は以前より増えているが,身体能力を変えて一流の選手になるための練習量としては不足である。身体能力を高める上げるトレーニングプログラムを作り,週に3回以上行えば半年後には成果が表れる。身体能力を上げることは怪我の予防になり,怪我をしている多数の選手の問題解決にもがる。

選手は大会が終われば,ゼロからスタートし常に新しい目標を立てることが重要となる。アマチュアでもプロに負けないように練習し身体能力を高め,プロのようなメンタルの強さを身に付けなければならない。課題は他にも沢山あるが,レベルを上げる過程の一番大きな問題と捉えて取り組む必要がある。東アジア大会では2人だけ,今大会も2人のみがノーミスという現実を見れば,問題点ははっきりしている。また自己管理の問題にも,毎日考えて取り組んでもらいたい。怪我を抱えている選手が多いが,回復に向けて自らを改善すべきである。

来年はアジア競技大会が実施される。今回の結果は過去のものとして忘れ,次に向かわなければならない。前回までのライバルが引退すれば新たな選手が伸びて,新しい競い合いが始まる。

日本代表チームのために尽くし,サポートしていただいた日本武術太極拳連盟,長年お世話になっている中国のコーチたち,応援していただいた全ての皆様に感謝を申し上げ,今後の選手の健闘を祈る。