― 健康と太極拳 ― 新型コロナウイルスとは、何か、どんな注意が必要か?(川村 邦夫)

著者プロフィール

川村 邦夫
瀋陽薬科大学客員
教授 薬学博士

略歴
〇1935年生まれ、東京大学薬学部卒(薬学博士)
〇日本防菌防微学会名誉会員
〇PDA(非経口薬協会)名誉会員
 ※PDAの本部は在米国
〇WHOアドバイザー(医薬専門家委員会)歴任

1.ウイルスは、自分自身では増殖することが出来ず、他の生物細胞の中に入り混んで、他の生物細胞を利用して自己の複製、増殖するモノです。自分では増殖できないので、「生物ではない」とされています。

2.「コロナウイルス」とは何か?新型コロナウイルスとは?「コロナ」とは「王冠」の事で、ウイルスの形に由来しています。ヒトの風邪の原因となるウイルスとして4種類のコロナウイルスが知られています。このほかに、2002~2003年に流行したサーズ(SARS)や2012年に流行したマース(MERS)があります。新型コロナウイルス(2019以降)はヒトに感染することが明らかとなった7番目のコロナウイルスです。

3.接触感染と飛沫感染:ウイルスの感染の仕方には「接触感染」と「飛沫感染」があります。「飛沫感染」は、感染者の飛沫(くしゃみ、咳、唾液など)と一緒にウイルスが放出され、それを感染者以外の人が口や鼻から吸い込むことで感染します。「接触感染」は、感染者がくしゃみや咳をした後、ウイルスが付着した手で周りの物に触れることで感染者のウイルスがそうした物質に移り、感染者以外の人がそれらの物に触れることで、ウイルスが手に付着し、感染者に接触しなくても物を介して感染することを指しています。例えば電車やバスのつり革、ドアノブ、エレベーターのスイッチ、紙幣や硬貨などです。厚労省が指示している「手洗い」・「マスク」・「3密回避」は、「接触感染」、「飛沫感染」を回避するための重要な手段です。

4.感染した時の症状:新型コロナウイルスの症状は、普通の感冒に似た症状に加えて、急性の呼吸器疾患になることがあります。統計によると、80%が軽症で、14%が重症、5%が重篤と言われています。

5.問題点−1:問題の第一は、潜伏期間が1~12日で、長い日数を経て発病することがあり、また、軽症が80%で感染していても気づかない人が、他人に感染させることがあり、この人から感染した場合、20%の人は重症、重篤な症状になることです。

6.問題点‐2 温度と湿度の影響:一般にウイルスは、高温・高湿では弱いとされています。学会で「1℃温度が上がるごとに、新型コロナ患者数は5%減少する」という報告があります。しかし、実際には、昨年の8月、9月の高温・高湿の時期にも、かなり流行していました。その点、インフルエンザよりもかなり感染力が強く、疾病の症状も重いようです。

7.抗原と抗体:体内に侵入した細菌やウイルスなど病気のモトを「抗原」と言います。体の中に侵入してきた「抗原」(「特定の異物」例:新型コロナウイルス)にだけ結合して、これを生体内から除去する分子を総称して「抗体」と言います。

8.免疫:免疫システムには、「自然免疫」と「獲得免疫」があります。「自然免疫」は、体内に侵入した細菌やウイルスなどを異物(自分以外のもの)として攻撃することで、自然に備わった防御システム・「自然免疫」です。「自然免疫」は、年齢と共に低下すると言われています。高齢者が新型コロナで重篤化しやすいのは、このためです。「自然免疫」だけでは「抗原」を処理できないと体が感知した時には、体内で「免疫システム」が働いて「抗体」が出来て「自然免疫」を補強します。これを「獲得免疫」と言います。体には二重、三重の防御システムがあって、異物(病原物質)を除去しようとします。新型コロナウイルスが侵入してきた時にも、これに特異的に結合して無害にする「抗体」が出来ます。これは、侵入してきた後に出来る「獲得免疫抗体」です。一旦、出来た「獲得免疫抗体」は、治癒後も体に残り、同じ異物(ウイルス)が侵入してきた時には、すぐに感染を防ぎ、除去します。この「抗体」を人工的に作って、ワクチンにしようという研究が進められています。

9.体力とは「体の行動力」と「体の防衛能力」:体力とは、積極的に仕事をしていく『体の行動力』と、ストレスに耐えて、生命を維持していく『体の防衛能力』(自然免疫力)とがあります。「行動体力」とは身体能力のことで、一般的にはこちらの方が「体力」と理解されています。一方、「防衛体力」は生命を守るために必要な身体の抵抗力の事です。身体に負担のかかる外的ストレスから身体を守り、健康的に過ごすことができる調整能力のことを指します。外的ストレスには、感染症を引き起こす病原菌、温度などの環境変化、自分自身の体調コントロール、加齢、精神的なストレスなどが挙げられます。この「防衛体力」の低下が風邪をひきやすくする原因であり、新型コロナウイルスにもかかりやすく、症状が悪化しやすい、という事になります。病気に対する「免疫力」は「防衛体力」の一つです。

10.適度な運動は免疫力を高め、過度な運動は免疫力を下げる:運動量と感染症のリスクの関係を次の図に示しました。新型コロナに対する感染と考えても、同じことです。適度な運動、正しい生活リズムは感染予防に効果があると言う事です。運動不足はいけませんが、過度の運動も「防衛体力」の面からは、リスクが大きくなります。

11.自然免疫力(体の防御能力)と太極拳:ここで太極拳のことを考えてみましょう。図を見ると、適度な運動量の時に、感染リスクは最低になっています。何が適度な運動で、何が過度な運動か、については客観的な基準はありませんが、個人ごとに違ってくると思います。1-2時間継続して運動し、運動後平静で爽快感を感じる程度は、「適度な運動」です。運動後、倒れる程の運動は、「過度」と言う事になります。アスリートは、過度な運動にも耐え、「防衛体力」を犠牲にして「行動体力」を高めることが必要とされます。これはアスリートの宿命です。太極拳では、過度な運動はせず、老若を問わず、すべての人が適度な運動を行い、「自然免疫力」を高め、感染リスクを下げます。万一、感染しても、症状を軽減します。太極拳をやって、今年も元気に過ごしましょう。

感染症のリスクと運動強度との関係を示すカーブ