「2015年度冬季海外強化合宿(北京)」強化指定選手22人と強化コーチ3人が参加

(公社)日本武術太極拳連盟は昨年12月29日から今年の1月6日まで,中国・北京市内の北京市什刹海体育運動学校で「2015年度冬季海外強化合宿」を行った。

今回の合宿は公益財団法人日本オリンピック委員会選手強化NF事業として実施されたもので,昨年の日本代表選手と初参加の新人男女選手合わせて22人と日本連盟選手強化委員会のコーチ3人が参加した。中国からは,4人の特別コーチ(太極拳2人,長拳1人,南拳1人)が指導に当たった。

合宿の内容は,以下,随行した強化コーチのレポートに詳述する。

2015年度冬季強化合宿レポート

Ⅰ.訓練面
【長拳】

今回の訓練で興味深かったのは,「表現力」です。皆が同じ組合動作を教わり,それを自分のものにしていく,という過程が,自選競技選手にとっては非常に勉強になったと思います。自分の動きの“タイプ”(スピード系なのか,パワー系なのか,など)や,自分の身体の特徴(柔軟性があるのか,筋力が強いのか,長身か,小柄か,など)を理解していないとできませんので,教わったようにしか動けない,という最近の選手には,良い刺激になったと思います。

長拳担当の厳コーチは,毎回のように「意識」を指摘されますが,ベテラン選手も含めて,どこまで理解できているのかが気になります。

一つの動作に対して,どこからどこへ向かって動いているのか,何を目的に行っている動作なのか,ということが理解できていれば,力点もはっきりするし,視線や定式動作も決めやすいという,本来は極当たり前の事です。

厳コーチからは,「今の選手が套路を作る際,参考になる動画などの資料が豊富である反面,ただ真似をするに留まり,動作そのものの意味までは理解しきれていない」という指摘も受けました。

動作を理解し,自分を理解することの重要性を,私たちコーチが選手たちへもっと伝えなければならないと感じました。


日本の太極拳トップレベル選手7人の訓練

厳平特別コーチの指導に聞き入る選手たち

【南拳】

昨年に続き,呉賢挙コーチにご指導いただきました。今回,非常に参考になったのは,跳躍難度を行う場合の「身体の軸」をどのように体得するか,という訓練方法です。ただ回転力を上げるだけでなく,回転している最中に体幹が緩まないように意識する,という練習にもなります。

補助的に体感したあと跳躍動作をしてみると,驚くほど身体がぶれず,着地も安定する確率が高くなりました。

南拳だからといって,通常の武術基本功をやらない傾向にある日本の選手ですが,競技選手である以上,武術に必要な瞬発力や柔軟性は求められています。個人的な訪中での訓練も含めて,何度か呉コーチに教わってきた南拳選手たちは,長拳選手たちよりも基本功が正しく行えていた印象があります。

【太極拳】

訓練の内容としては,太極拳の基礎がメインでした。手法・歩法はもとより,太極拳そのものの動きの概念,そのための身体の使い方,動かし方の練習方法,さらには動作一つ一つの足,手,視線の理にかなった方向,等々。今回の合宿中,全コマこの様な訓練が続きました。

おそらく競技選手にとっては,地味でわかりにくい訓練だったと思います。選手たちも,始めは戸惑っていたようです。しかし,時間のない日本での練習では,十分に指導されることのない内容ですし,太極拳を知ろうとする者にとっては,一番大事な部分であるのも確かです。選手たちも,徐々にではありますが,「自然な動き」というものが分りかけてきたようでした。

合宿後半は,基礎練習に加えて,陳式太極拳の套路を教わりました。最近作られた「規定套路」のようで,老架式の動きを取り入れています。競技であっても,伝統太極拳の動きを学ぶという目的もあるのかと思います。表演太極拳しか触れることのない選手たちにとっては,身体の使い方などの違いが学べたのではないでしょうか。


呉特別コーチから南棍の指導を受ける

Ⅱ.生活面

北京到着後,体調管理について孫ヘッドコーチよりお話がありました。マスクは必ず着用ということに加え,うがいだけでなく,お湯を少しずつ飲むことにより,菌を体内へ流し込み殺菌する,というものです。今回の合宿は,朝山選手が右足首を捻挫し,2日間ほど安静にしていましたが,回復も早く,すぐに訓練へ参加できました。その他は全員が怪我もなく,体調を崩すこともなく,最終日まで元気に過ごすことができました。

 

Ⅲ.まとめ~合宿の効果と反省

今回は,どの種目も基礎を重視した訓練であったと思います。基礎だからと言って,決して簡単なことではなく,種目への理解度,身体能力の基盤がなければ効果がない訓練内容です。技術面も当然ながら,「練習の方法」にも気づかされた点が多い合宿だったのではないかと思います。

今回の参加選手構成ですが,ベテラン選手が減り,初参加した若手選手も数名いましたが,今まで「若手」だった選手が「中堅」になっているかといえば,まだまだ成長が足りないようでした。確かに日本チーム全体から見ると,若手選手も育ってきていますが,若手を牽引する先輩が少ないのではないか,という事も気がかりです。

毎年の反省点ですが,この時期は年末のジュニア合宿と重なり,北京合宿が始まる前の1週間ほどの期間,自選難度の選手たちはまったく訓練を行えずに,北京合宿へ参加するというのが現状です。

しかし,研修センターなどが使えないという現状の中,各選手が自ら身体を動かせる環境を探すという努力をしているかといえば,疑問です。年末とは言え,各施設はまだ営業している時期ですし,各選手の所属する団体も,まだ練習しているところもあると思います。強化選手だからといって,訓練環境を用意されるのを待っているだけに慣れてしまってはいないか,という気もします。

このような合宿を通し,強化選手であるという自覚を強く持ち,技術の向上だけではなく,自分自身が成長するためにはどうしたらよいか,何ができるのか,ということも学んでほしいと思います。

最後に,毎年素晴らしい機会を与えて下さる日本武術太極拳連盟に感謝すると同時に,日本チームの選手強化のために,深いご理解のもと受け入れて下さり,私たちが安心して,訓練に取り組めるように取り計らっていただいた,北京市什刹海体育運動学校の諸先生方,北京および福建省のコーチの方々に,心よりの感謝を申し上げます。

(日本連盟選手強化委員会 孫建明ヘッドコーチ,孔祥東コーチ,勝部典子コーチ)


什刹海体育運動学校内の体育施設にて

2015年度 冬季北京強化合宿 参加者名簿

No. 種目 性別 氏名 所属
1 太極拳 男子 村上  僚 東京都連盟
2 藤沢  佑 秋田県連盟
3 脇田 圭佑 新潟県連盟
4 荒谷 友碩 千葉県連盟
5 吉田慎之佑 東京都連盟
6 女子 齋藤 志保 岩手県連盟
7 薄井 花音 栃木県連盟
8 長拳 男子 市来崎大祐 東京都連盟
9 大川 智矢 東京都連盟
10 小松  資 東京都連盟
11 別当  響 大阪府連盟
12 藤永 和樹 大阪府連盟
13 女子 山口 啓子 東京都連盟
14 柏熊 結姫 東京都連盟
15 本多 彩夏 東京都連盟
16 佐藤実莉以 東京都連盟
17 池内 理紗 東京都連盟
18 南拳 男子 川口 昂大 大阪府連盟
19 大畑 昌平 大阪府連盟
20 朝山 義隆 大阪府連盟
21 毛利 亮太 大阪府連盟
22 女子 阪 みさき 大阪府連盟
23 コーチ 孫  建明 選手強化委員会ヘッドコーチ
24 孔  祥東 同 強化コーチ
25 勝部 典子 同 強化コーチ
26 中国特別
コーチ
徐  偉軍 太極拳/北京
27 李   強 太極拳/福建
28 厳   平 長拳/北京
29 呉  賢挙 南拳/福建