「太極養生五防功」の紹介

 中国・北京市の馬 長勲(ま ちょうくん)老師一行4名が日本連盟の招きで来日され,3月10~30日の20日間,東京で太極拳推手等の講習を行われた後に,3月30日に無事帰国された。

東京の講習会で,馬老師は太極拳推手などの絶技とも言える技を多くの人に惜しげも無く講習された。そのなかで指導されたものの一つ,「太極養生五防功」は馬老師が編纂された,簡単で,だれでもが練習できる養生法である。北京に帰国後に,馬老師の子息の馬駿氏があらためて2016年3月17日に東京の講習会で紹介されたこの運動の順序を記載して,送付していただいた。ここに,その動作順序を紹介する。養生運動(健康体操)として,また,太極拳講習会の準備運動などとして,多くの方々の参考に供するものである。

(日本語訳:石原泰彦)

「太極養生五防功」(たいきょく ようじょう ごぼうこう)の由来

「太極養生五防功」は,中国古代の《黄帝内経》(中国最古の医学書,前漢時代,紀元前206~紀元前8年に記載されたもの)のなかで言われている“まだ病気になっていない状態で治療することが上であり,すでに病気になっているものを治すものではない” と言われていることに基づいて,馬長勲老師が1990年代初期に編成したもので,簡単で学び易い,短い練功套路です。

“治” は,治療管理の意味であり,“治未病” は,適切な措置をとって病気が発生する前に,病気がすすむことを防ぐことを意味するものです。病いになる前(未病)に,病いを防ぐという,中国医学の基本的な考えに基づくものです。

「太極五防功」の動作名称は,動作の意味や動作の形を表すものです。「大地回春」は動作の持つ意味を表わし,「犀牛望月」は動作の形を表わすものです。

その特徴は,動作が簡単で,覚えやすく,血液の循環を促進することにはっきりとした効果をもたらすものです。

動作一:大地回春(だいちかいしゅん)

春に生まれ,夏に成長し,秋に収穫し,冬に蓄える。四季になぞらえ,4つ意味を含む動作からなる。

動作は,上り・下がる(起落)があり,開く・合わせる(開合)があり,胸を拡げ・背を伸ばし(寛胸展背),腰と背を縦に伸ばす(竪腰直背)動作がある。

これらの動作を練習することによって,「任脈」と「督脈」を働かせ,血液の対流を促し,頸部と脊椎の病気を予防することにすぐれた効果をもたらす。

この動作を伸びやかに,ゆっくりと行い,呼吸は自然に行い,動作を起こす時に吸い,下ろす時に吐き,ゆっくりと,深く,長く行う。すなわち,優れた有酸素運動である。

動作二:犀牛望月(さいぎゅうぼうげつ;犀が月を見る)

この動作は,肩,頸椎,腰椎を比較的大きく動かす。頭部を回し,腰を回し,背を起こして,肩,頸部,腰を動かし,腕を持ち上げる。この運動は,体内の不随意筋を動かす効果がある。肩周囲の炎症,頸椎の病気,腰の筋肉損傷を予防する効果がある。

動作三:俯身探海(ふしんたんかい;身を臥し,海の底を探る)

体を前に俯すことで,腰部と腎臓を按摩する。よく見られる腰筋損傷など,腰間板が突出することを予防し,補助的に治療する効果がある。

動作四:揉動双膝(じゅうどうそうしつ;膝を回し,動かす)

膝を軽く回し動かすことで,膝関節の血液循環を促し,関節炎,歩行時の膝の痛みにたいして,補助的治療効果が得られる。

動作五:流星赶月(りゅうせいかんげつ;流れ星が月を追う)

腰を回すことを自分の両腕に伝え,両腕で軽く体を打つ。両腕を回し,片腕が後ろに来る時に,腎兪を軽く打つことで,腎臓を鍛える効果がある。前の腕は,手のひら,が上,中,下の「三焦」を軽く打っても良い。

横隔膜より上の内臓器官は「上焦」と言い,心臓,肺臓を含む。横隔膜より下で腸内臓器官を「中焦」と言い,脾臓,胃,肝臓,胆嚢などに内臓器官を含む。

腸より下の内臓器官を「下焦」と言い,腎臓,大腸,小腸,膀胱等を含む。

これらの「三焦」を軽く打ち,心臓,肺臓の働きを整え,脾臓,胃の吸収,消化と腸内運動を高める効果をもたらす。

 

五防功は,簡単に身に付けることができ,服装や場所の制約を受けずに行うことができるもので,自分の体の状況に基づいて,五式のなかの一式だけを練習することも可能です。もちろん,五式を一緒に練習すればなお良い効果があるものです。動作の速度,動作の大きさは,自分で把握して行い,伸びやかに気持よく行うことの原則のうえで,太極拳の練習の前のウオームアップとして行うことも出来るものです。

皆さんが,いつも練習して,その都度の感覚や効果を総括して練習することで,得られるものが有ることを希望します。