「2016年度冬季海外強化合宿(北京)」を実施
強化指定選手17人,強化コーチ2人が参加
(公社)日本武術太極拳連盟は,「2016年度冬季海外合宿」を,昨年末12月29日から今年の1月5日まで,例年と同様に中国・北京市内の北京市什刹海体育運動学校で実施した。
今回の合宿は公益財団法人日本オリンピック委員会選手強化NF事業助成を受け実施されたもので,今年度の日本代表選手を含む男女選手合わせて17人と日本連盟選手強化委員会のコーチ2人が参加した。
合宿の内容は,以下,随行した強化コーチのレポートに詳述する。
2016年度冬季強化合宿レポート
合宿地の北京市什刹海体育運動学校には,地元の北京武術隊に加え,福建省武術隊,山西省武術隊,天津武術隊の参加もあり,非常に多くの優秀なコーチ・選手と交流することができた。今回は太極拳・南拳・長拳それぞれの組から練習に関してのレポートを報告する。
太極拳総括レポート
太極拳組は日本からは6人の選手が参加し,福建隊の李強コーチの下,11人の中国トップ選手たちと共に,量が多く質の高い練習をすることができた。練習では,主に,難度動作・発勁動作の練習を行った。難度動作では,【(難度3種全て成功)×8回】や【難度6回連続】など,ノーミスを意識した練習を行った。
今回の合宿においてこのような練習を多く行ったことで,套路の中で難度を成功させるためには,筋力的に疲れている中でも全ての難度を成功させる練習が必要だと感じた。また,日本人選手は中国人選手よりもかなり早い段階でミスが目立っており,跳躍の持久力をつけるための筋力トレーニングや着地でブレない体づくりが必要だと感じた。試合で勝つためには「ノーミス」を最低条件として,全ての難度を成功させなければ意味がないという意識をもって,日本でも同じメニューを取り入れて練習をしていきたい。
発勁動作では,【発勁動作組み合わせ20回】【発勁組み合わせ(5動作)×5連続】など,難度動作と同じく,かなり多くの量を練習することができた。今回の合宿では,発勁動作練習に時間をかけたことで,少しずつ体が動作に慣れ,スムーズに動けるようになったり,先生や選手に正しい動き方を教えていただいたりするなど各選手に多くの収穫があった。中国人選手の動画の真似になってしまいがちな発勁動作であるが,この合宿を通してまずは動作の正しい理解が重要であると感じた。
動作について正しく理解することで,呼吸や力点,腰の使い方などが体現されていく。そのためには,先生や選手に聞いたり,本を読んだりするなど,各選手が自ら学びにいくことが大切だと感じた。
今回の合宿では,難度動作の練習が中心であったが,怪我や体調不良になる選手は居らず,全員が気を引き締めて集中して練習することができていた。また,多くの選手が1単元の練習の「量・密度の高さ」が印象に強く残っていた。約4分間の套路の中でいかに難度動作のミスをなくし,いかに強くしなやかな発勁動作ができるかという課題に対して必要な練習方法を知ることができた,大変収穫の多い合宿となった。帰国後もぜひ今回の練習メニューを計画的に取り入れ,今年の全日本選手権大会では全員が「難度動作ノーミス」で演武できるよう,より密度の高い練習をしていきたい。
最後に,今回の合宿で指導してくださった,李強コーチ,北京・福建・山西・天津の各選手,派遣してくださった日本武術太極拳連盟に感謝いたします。
南拳組総括レポート
今回の北京合宿では,福建省武術隊から魏先生と呉先生に来ていただき,指導を受けることができた。さらに加えて,9人の福建省の選手と1人の北京の選手と合同で練習することができ,大変貴重な練習の機会を得ることができた合宿であった。
練習内容は技術練習と難度練習が中心で行われた。技術練習では,やはりスピードとパワーについて指摘されることが多く,自分たちの目の前で中国人選手が動いているのと比べるとその差は歴然であった。中国人選手は,スピードもただ早いだけでなく,緩急がしっかりとしており,南拳独特のリズムが細かく緻密に表現されていた。また,先生に二人体制で指導していただくことができたので,歩型や套路での型をひとつひとつ細かく見てもらうことができ,目線や手の向きなどの細かいところまでしっかりと直していくことで,動作全体の印象が良くなる実感を得ることができた。
難度練習では,難度の安定性はもちろん,難度の質の高さが求められた。脚の上げ下げのスピードや,体幹周りの安定性など,ただただ跳べる選手ではなく,絶対的な安定感と美しさが難度に求められている印象があった。たくさんの中国人選手のハイクオリティの難度を間近で何度も見ることができ,参考になることが非常に多く,日本に帰ってからの難度の課題が明確となった。
全体的に南拳組は練習量が多く,途中毛利選手が体調不良で抜けることがあったが,全員無事に怪我なく終わることができた。今回の合宿での貴重な経験は,日本に帰ってからしっかりと練習で確認していく必要を感じた。
長拳組総括レポート
近年の国際大会では,アジアをはじめとして難度動作の発展が見受けられる。以前までは中国人選手が行っていたC難度も頻繁に行われ,難度の完成度・跳躍も高く,審判の評価もC難度の有無で大きく左右される。今合宿は,アマチュア選手である日本人がその近年の流れに対応するために跳躍動作を重点的に行った。実際に中国の一流選手たちから難度動作の方法や感覚を教えてもらい,また新しい難度動作もマットを使って練習し習得することができた。今後日本の練習においても,マットなどを使用して難度の高い動作に挑戦していくべきだと感じた。高い難度を行うための筋力トレーニングなども,まとまった時間をとって行うことが必要であると感じた。
また,長拳・刀棍・槍剣と組み合わせの動作を新しく習得し,繰り返し練習を行った。様々な身法を用いた組み合わせを満遍なく行うことで,得意としている動作・不得意な動作を知ることができた。初めはなれない動作に苦戦していたが,毎日行うことで選手たちも自分のものへと昇華していく実感があったようである。
難度動作にしても組み合わせにしても,一回の練習の中でまとまった時間を設けて重点的に訓練を行うことが日本での課題と感じた。アマチュアで不定期な練習にはなるが,その時間の中で系統だった練習を計画・実行していくことが必要である。
(日本連盟選手強化委員会 孫建明ヘッドコーチ)
2016年度 冬季北京強化合宿 参加者名簿
No. | 種目 | 性別 | 氏名 | 所属 | |||||
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1 | 太極拳 | 男子 | 村上 僚 | 東京都連盟 | |||||
2 | 藤沢 佑 | 秋田県連盟 | |||||||
3 | 脇田 圭佑 | 新潟県連盟 | |||||||
4 | 荒谷 友碩 | 千葉県連盟 | |||||||
5 | 女子 | 齋藤 志保 | 岩手県連盟 | ||||||
6 | 庄司 理瀬 | 秋田県連盟 | |||||||
7 | 長拳 | 男子 | 大川 智矢 | 東京都連盟 | |||||
8 | 小松 資 | 東京都連盟 | |||||||
9 | 別当 響 | 大阪府連盟 | |||||||
10 | 桐山 賢龍 | 静岡県連盟 | |||||||
11 | 女子 | 山口 啓子 | 東京都連盟 | ||||||
12 | 本多 彩夏 | 東京都連盟 | |||||||
13 | 柏熊 結姫 | 東京都連盟 | |||||||
14 | 南拳 | 男子 | 朝山 義隆 | 大阪府連盟 | |||||
15 | 毛利 亮太 | 大阪府連盟 | |||||||
16 | 女子 | 阪 みさき | 大阪府連盟 | ||||||
17 | 小島恵梨香 | 滋賀県連盟 | |||||||
18 | コーチ | 孫 建明 | 選手強化委員会ヘッドコーチ | ||||||
19 | 孔 祥東 | 同 強化コーチ |