2019年度冬季シニア・ジュニア合同強化合宿を実施

強化指定選手47人、強化コーチ13人が参加

(公社)日本武術太極拳連盟は、「2019年度冬季シニア・ジュニア合同強化合宿」を昨年末12月23日(月)から27日(金)まで、日本連盟トレーニングセンターで実施した。

本合宿は公益財団法人日本オリンピック委員会選手強化NF助成を受けて実施されたもので、中国から国家級コーチ・選手7人を招き、今年度の日本代表選手を含むシニア・ジュニア強化指定選手の男女合わせて47人と選手強化委員会のコーチ13人が参加した。

以下、選手強化委員会のレポートを掲載する。

今合宿は、選手強化NF事業として実施された

今合宿は、選手強化NF事業として実施された

 

冬季シニア・ジュニア合同強化合宿レポート

Ⅰ.目的

難度動作における高度な技術を習得するための訓練を重点的に行い、基礎的な体力・体質向上の基礎訓練や、武術動作の習熟、演技レベルの向上などを課題として実施。

Ⅱ.内容

中国の国家級コーチ・選手を招き、質の高い指導を受けた。特筆すべきは、シニア・ジュニア合同での合宿であったこと。ジュニア選手はトップ選手たちから、技術だけでなく、訓練の受け方・合宿への取り組み方を間近で見て刺激を受け、シニア選手はジュニア選手から、若く活発なエネルギーを感じ、各々を奮い立たせていた。

Ⅲ.特別講習

合宿の初日に、専門の講師を招いてSNS講習を行った。SNSによる問題が多様化し、事件ともなっている昨今、スポーツ選手はその立場から特に注意を払わなければならない。今回お招きした上田講師は、ソーシャルメディアがもたらす影響やリスク、また効果的な活用法を、実例と共に、非常にわかりやすく講習された。

講師:
上田大介氏(公益財団法人日本オリンピック委員会 選手強化本部 インテグリティ教育ディレクター)

JOCの上田大介講師によるSNS講習の様子

JOCの上田大介講師によるSNS講習の様子

Ⅳ.各種目の訓練内容

長拳

厳平老師 中国代表団監督
李英奎コーチ 中国代表団コーチ
張清淳選手 中国代表団選手

長拳組の訓練内容は、「難度動作の為の講習会」そのものだった。

どう飛び上がるべきか、どの姿勢をたもつべきか、軸を真っすぐにし回転をぶらさないために、早く足をおろすために、早く回るために、身体のどの部位の力が必要でどう意識するべきなのか。それらの理論を理解し身体で実感するためのストレッチ~基本功~跳躍。全てが難度動作に繋がる内容であった。新しい知識や練習方法にチャレンジする選手たち。今まで培ってきた従来の方法からすぐに変化をさせることはやはり容易ではないが、様々な角度からのコーチングにより、選手たちは理解を深めながら一生懸命取り組んでいた。シニア選手たちは各々の経験と合わせながら理解を深め取り込んでいく。若手選手・ジュニア選手は感覚的に掴みながらの成長を。合同合宿ならではの、それぞれ違った成長を感じ取ることができた。

套路練習の時間帯には、シニア選手は各自の套路を見て頂き講師からアドバイスを(世界最高峰の選手を育成している講師からの刺激あるアドバイス!)。ジュニア選手は、国際第三套路の長拳を学習した(国際第三套路のテキストを作成された先生から正しい動作を学べるという貴重な経験!)。

合宿最終日には、器械の訓練に取り組んだ。国際ルールにおいて追加された器械の減点内容などをピックアップし、基本動作から組合動作の見直しを行った。

李英奎コーチのご指導を受けるジュニア選手たち(長拳)

李英奎コーチのご指導を受けるジュニア選手たち(長拳)

 

南拳

呉賢舉コーチ 中国代表団コーチ
周新建選手 中国代表団選手

南拳組は、跳躍に必要な軸の取り方、跳躍において意識すべき箇所に重点を置き基礎中心の訓練を行った。

今回はジュニア選手もいるという事で、怪我防止のため練習量自体は少なめであったが、頭を使い難度を安定させる為に必要な基本功のやり方から注意点まで細かい指導を受けた。

南拳の基礎や歩法の訓練では、動作の意味を捉えながら反復して練習を行い、勁力を出す箇所では股関節、腰から力を出すレクチャーを先生自ら見せていただき分かりやすくご指導いただいた。

ジュニア選手はシニア選手に比べ、南拳の基礎力が甘く、動作も安定していないので、普段の基礎訓練の量から増やし、脚腰の強化を図らないといけないと強く感じた。

跳躍練習では旋風脚、騰空擺蓮の練習を中心に行った。踏切から空中姿勢、着地に至るまで基本功で行なっていたことが注意できているか、軸がブレていないか、動作を見てすぐに原因を追求し、各選手に合ったアドバイスをいただいた。

訓練後半、シニア選手は各自の套路の組み合わせ練習、分段練習を行った。その中でも基礎訓練で行なったことが套路に活かせているかを重点的にご指導いただいた。

一方ジュニア選手は第三套路三種目の動作確認を全て行い、套路に誤りや間違った解釈がないか細かく見ていただいた。

今回はシニア・ジュニア合同合宿となり、互いに良い刺激となった。特にジュニア選手にとっては中国のトップ選手、日本のトップ選手と訓練を共にし、技術レベルを肌で体感できた事は、これからの意識向上に繋がると思う。

跳躍の安定力が難度選手の第一の壁となる競技なので、今回の訓練は大切な事を学べる良い機会となった。

南拳チームは呉賢舉コーチによるご指導を受けた

南拳チームは呉賢舉コーチによるご指導を受けた

太極拳

李強コーチ 中国代表団コーチ
黄志坤選手 中国代表団選手

太極拳組は、基本功と跳躍の難度動作はもちろん、重点的に訓練をうけたのは発勁動作である。中国人コーチ・選手に作っていただいた【陳式発勁動作の組合せ】【規定陳式剣の動作】をご指導頂いた。

近年、発勁動作は型の中に取り入れる事で全体のリズムを向上させ、且つメリハリをつけるためにとても重要となってきている。また、套路の半分くらいは発勁動作という傾向にあるため、数多くの発勁動作を習得しなければならない。今回合宿に参加した太極拳選手たちは、普段の練習では各自の套路に入っている発勁動作を繰り返し練習する事が多く、今回のような新しい動作の練習は選手達にとって新鮮だったのではないだろうか。合宿終盤までにはジュニア選手もシニア選手も発勁動作の組み合わせをしっかりと覚える事ができたので、引き続きこれを習得し各自の型に取り入れ、更なる演技レベルの向上と共に、世界でも通用する選手になって欲しいと強く思う。

現在では、世界においても難度動作のレベルが上が ってきていることから、日々の練習で跳躍の回数を重ねて練習する事で、難度の成功率を上げていく必要性がある。さらに、総合的な演技レベルの底上げには、太極拳の基礎動作の見直しも必要だと感じた。

今回は初のジュニア選手とシニア選手が合同で合宿を行ったことで、例年とは雰囲気も大きく変わり、選手全員が個々の目標に向かい一生懸命練習に励んでいた。初めのうちは全体の雰囲気に緊張していたジュニア選手だったが、積極的に練習に取り組むことで、合宿後半では全員がシニア選手たちと同等の練習をこなす程まで成長していた。ジュニア選手にとって今回の合宿は、練習内容はもちろんの事、全体の雰囲気等含めとても大きな経験になり、またこれを今後の選手生活に大きく繋げてもらいたい。

中国代表団の黄志坤選手による太極剣の訓練

中国代表団の黄志坤選手による太極剣の訓練

Ⅴ.アンチドーピング・コンプライアンス講習

最終日には、強化コーチによるアンチドーピングとコンプライアンスについての講習が行われた。アンチドーピングについては、ドーピングの歴史から処罰の実例、なぜドーピングをするのか、なぜドーピングはなくならないのか、などを説明。またエナジードリンクへの依存についても指摘した。コンプライアンスについては、武術太極拳という競技のシニア・ジュニアのトップ選手であるという自覚を持ち行動することの重要さを説明。身近なところでは、センター付近のコンビニやバス停、バスや電車に乗車している時、また競技会会場などでも、常に見られているという意識で行動すること。選手本人というよりも、武術太極拳という競技そのものの品位を落としかねない、と注意を促した。

Ⅵ.環境への取り組み

これまで訓練時の水分補給は紙コップを使用していたが、今回はJOCの環境活動に基づき、その取り組みとして「マイコップ持参」とした。これにより、合宿終了後のゴミが軽減されるとともに、各選手の飲料に対する管理も身についたのではないかと思う。

『来たときよりもキレイに!』というスローガンのもと、合宿の終了後には全員でセンターの清掃をすることは、今までも行っている。

Ⅶ.総括

今回の冬季合宿は、ジュニア選手にとって初めての中国人コーチによる訓練であり、日程も長かった。参加した選手たちは、それぞれに緊張もあったと思う。シニア選手も、いつもの合宿とは異なり、ジュニア選手と寝食を共にし、牽引する立場として、やはり緊張感のあった数日間となったであろう。そんな中、体調を崩す選手、怪我をする選手が皆無といっていいほど、全選手が最後まで訓練に取り組めたことは、今までなかったのではないか。

一つには、毎コマの訓練スタート時に、李英奎コーチによる入念なストレッチ、柔軟、筋肉および靭帯強化トレーニングなどを行ったことにある。今回の合宿中は、ランニング、ダッシュといった通常のウォーミングアップは一度も行われなかった。にも関わらず、筋肉痛であろう身体がすぐにほぐれ、時間いっぱい難度の練習をこなすことができたことは、驚きとともに納得のいく訓練法である。選手のみならず、コーチたちも学ぶべきことが非常に多かった。若手コーチが現役選手だった頃よりも、技術の進化するスピードが速くなってきており、指導方法も変化してきている。指導する側も、常に最新の情報を収集し、技術や指導方法を探究していくことも、今後の日本チーム全体のレベルアップに繋がるのだと思う。

今回の合宿を通して、技術の習得はもちろん、訓練自体への取り組み方も見直すべき点が多かったように思う。難度の高い動作に取り組まなければならないからこそ、基礎的な身体作りや日々の基本練習がいかに重要かということが、選手たちへ伝わり理解できたのであれば、この合宿は大成功だといえる。

最後に、5日間ご指導いただいた厳平監督はじめ中国代表団のコーチ・選手各位、このような機会を与えて下さった日本武術太極拳連盟の諸先生方へ感謝するとともに、この貴重な時間を無駄にしないためにも、強化委員会および選手一丸となって、さらに精進して行く事をあらためて心に誓い、合宿レポートのまとめとする。

(選手強化委員会)

岡﨑温会長代行と川﨑雅雄専務理事から激励の挨拶が行われた

岡﨑温会長代行と川﨑雅雄専務理事から激励の挨拶が行われた

 

2019年冬季シニア・ジュニア合同強化合宿 参加者名簿

No種別氏名性別所属種目
1




大野 雅也千葉長拳 刀術 棍術
2小松  資埼玉長拳 剣術 槍術
3坂本  蓮埼玉長拳 刀術 棍術
4松本 鷹仁東京長拳 刀術 棍術
5三船  仁福岡長拳 剣術 槍術
6村上 舜平東京長拳 刀術 棍術
7池内 理紗 埼玉長拳 刀術 棍術
8柏熊 結姫東京長拳 剣術 槍術
9本多 彩夏東京長拳 剣術 槍術
10山口 啓子東京長拳 剣術 槍術
11荒谷 友碩千葉太極拳 太極剣
12蝦名 冬馬東京太極拳 太極剣
13菊地 創士青森太極拳 太極剣
14村上  僚東京太極拳 太極剣
15齊藤 志保岩手太極拳 太極剣
16庄司 理瀬秋田太極拳 太極剣
17寺岡 瑠里北海道太極拳 太極剣
18平田 優花埼玉太極拳 太極剣
19西




朝山 義隆大阪南拳 南刀 南棍
20近藤 稜真大阪南拳 南刀 南棍
21毛利 亮太大阪南拳 南刀 南棍
22別當  響大阪長拳 刀術 棍術
23三船  陸大阪長拳 剣術 槍術
24貴田菜ノ花兵庫長拳 剣術 槍術
25





鎌田慎ノ介北海道長拳 剣術 槍術
26稲垣 璃樹栃木長拳 剣術 槍術
27益川 和久埼玉長拳 刀術 棍術
28河合 瞳吾東京長拳 剣術 槍術
29竹内 郁斗静岡長拳 刀術 棍術
30古川 萌華岩手長拳 剣術 槍術
31中村 里香千葉長拳 刀術 棍術
32鈴木 崚介東京南拳 南刀 南棍
33松村龍之介東京南拳 南刀 南棍
34宮尾 宙尚新潟太極拳 太極剣
35磯野 水響千葉太極拳 太極剣
36西





松島 迅汰大阪長拳 刀術 棍術
37安良城基睦大阪長拳 剣術 槍術
38品川  歩兵庫長拳 刀術 棍術
39中田 琉月大阪長拳 刀術 棍術
40髙木 勇吹愛知長拳 刀術 棍術
41松川 爽人石川南拳 南刀 南棍
42新小田広希大阪長拳 刀術 棍術
43王  駿亮兵庫太極拳 太極剣
44西口 直輝大阪太極拳 太極剣
45田中 駿志愛知長拳 剣術 槍術
46益田 勇誓滋賀長拳 刀術 棍術
47鬼追  元大阪太極拳 太極剣
48



孔  祥東選手強化委員会 委員長
49前東 篤子同 副委員長
50孫  建明同 ヘッドコーチ
51李  自力同 強化コーチ
52神庭 裕里同 ジュニアヘッドコーチ
53丹井  均同 強化コーチ
54勝部 典子同 強化コーチ
55高山 宗久同 強化コーチ
56原田 将司同 強化コーチ
57中田 光紀同 強化コーチ
58内田  愛同 強化コーチ
59関屋 賢大同 強化コーチ
60市来崎大佑同 強化コーチ
61



厳   平中国代表団監督
62李  英奎中国代表団コーチ
63李   強中国代表団コーチ
64呉  賢舉中国代表団コーチ
65張  清淳中国代表団選手
66黄  志坤中国代表団選手
67周  新建中国代表団選手