輝け!武術太極拳アスリート ~レジェンド選手紹介/内田愛~
日本武術太極拳連盟・歴代日本代表選手の現役時代や今の活動、競技に向けた想いなどをご紹介します。
太極拳との出会い
私が太極拳に出会ったのは小学校6年生の時になります。
はじめは空手を横浜中華街で習っており、空手の先生(日本太極拳友会 三代正廣会長)に薦められた事がきっかけで太極拳を習い始めました。
最初は今まで習っていた空手とは動作がまったく違い、戸惑いもありましたが、空手を一緒に習っていた友人たちと一緒にやっている事が楽しくて続けていました。
ちょうど太極拳を始めて1年ほど経って13歳(中学校1年)の時に初めて全国大会へ出させて頂き、そこで32式剣で全国優勝をしました。今でも鮮明に覚えておりますが、その時を振り返ると、勝った時の喜びと驚きが大きく、また、自分自身への自信にも繋がり、その時から太極拳に没頭していきました。
そこから18歳で日本代表選手として選考して頂き、引退する29歳までの11年間を日本代表選手として国内、国外の大会で戦ってきました。
日本代表選手として
私が19歳の時に、今の国際種目である【 自選難度種目 】が始まりました。今までは太極拳動作ばかりで、自選難度種目の『跳躍動作』などはほとんど経験が無く、代表選手となった直後の種目変更という部分には正直かなり不安でした。
ただ、代表選手として選んで頂いた以上、『勝つ』事だけに焦点をしぼり、1年かけて新しい種目に対応できる体作りから新しい動作の習得を徹底的に行いました。しかし、日本では初めての競技種目だった為に、真似をする日本人選手も誰もおらず、毎回試行錯誤しながら練習に励んでいました。
当時からあまり意識はしておりませんでしたが、この時期から人一倍練習をする事が苦ではなく、『負けないために、勝つための努力』が結果長い現役選手を続けられた事に繋がったのではないかと思います。
そして2005年~日本でも自選難度種目が本格的にスタートしました。
初めの頃は、練習では苦手な跳躍や、慣れない太極拳動作もあり、思い通りには体も動かず悔しい思いも多かったです。
そんな中、長期中国遠征に行かせて頂いた時に、世界のトップ選手達との練習で『技術力の違い』『体力面での違い』など衝撃を受けました。
また、その衝撃は私自身の心に火をつけ、『世界でも通用する選手になりたい』『必ず国際大会で金メダルをとる』という思いで日々練習に励みました。
練習内容としては、太極拳の基本練習は勿論ですが、違う競技に触れるなど、自身の成長に繋がりそうなものは何でもトライしていきました。
最近ではウエイトトレーニングも主流になってきましたが、昔はあまりそこまでフォーカスされておりませんでした。しかし、当時からパーソナルトレーナーの指導やパワーリフターの日本代表選手に指導してもらうなど、自身に欠けている部分を補うために空いている時間は全て費やしていきました。
また、私が苦手としていた跳躍力を上げるという部分では、ウエイトトレーニングを取り入れてから跳躍力が上がるなど、大きく私を成長させてくれました。
ただ、そんな中でも太極拳の基本はおろそかにせず、基本の部分は毎日練習を行いました。そして基本があるからこそ世界で戦えたのだと思います。
また、質問される事が多かったことは、『モチベーションの保ち方』でした。
長かったようで短かった10年間、本当に全力で走り抜けてきました。
当時は、あまりモチベーションというのを意識した事はありませんでしたが、思い返してみると上記に記載した通り『誰よりも練習する事』がモチベーションの維持となり、そしてその練習する事が結果【 自信 】にも繋がっていました。
どんな大会でも緊張しますが、その【 自信 】が緊張を抑えてくれます。
2012年ベトナムでのアジア武術選手権大会では、ちょうど私の演武が始まった瞬間に、スコールで体育館の天井にあたる雨の音で、会場の音楽が全く聞こえなくなりました。
一瞬不安がよぎりましたが、集中力を切らさず普段の練習通りの演武でメダルを獲得しました。もしこの状況で自分への自信がなければ音楽と動作はバラバラになっていたと思います。要は、体で覚えるまで練習し、それが自信に繋がり、結果その自信が『モチベーションの維持』になっていたのかと思います。
努力する事に無駄な事はありません。
結果に繋がらなかった事ももちろんありましたが、結果に現れなくてもその過程全てが私の財産となりました。
ここまで一から育てて頂いた恩師や、普段の強化練習や国際大会ではずっと側で支えてくださったコーチの皆様には心からお礼申し上げます。
そして、日本チームの代表として一緒に戦ってきた今でもかけがえのない存在となっている仲間、応援してくださっている全ての方々のおかげで今の私が居ます。感謝の気持ちを忘れずにこれからも進んでいきたいです。
指導者としての今後について
現在は私自身強化コーチというポジションを頂いておりますが、私が今まで培ってきた技術を含め、経験等全てをこれからの選手たちへ伝えていけたらと思います。
そのためには、私自身、常に技術力を磨き続け、新しい事を学び続ける事が大切だと思っています。
そして自身でも教室を開き、沢山の生徒さんに恵まれております。
指導者としてもまだ走り始めたばかりで、人に伝える難しさを痛感しています。現役を退き指導者への道へ進んだ今も、昔と変わらず太極拳を学び、熟練していきたいと思います。
最後に、素晴らしい環境、そしてかけがえのない経験を与えてくださった日本武術太極拳連盟の皆様に心から感謝致します。
1984/11/24生 神奈川県横浜市出身
所属:神奈川県武術太極拳連盟 日本太極拳友会
主な競技成績・表彰:
■ 2005年~2014年 全日本武術太極拳選手権大会 自選難度太極拳10連覇
■ 2005年 東アジア競技大会(マカオ) 太極拳・太極剣総合銅メダル
■ 2006年 アジア競技大会(ドーハ) 太極拳・太極剣総合銀メダル
■ 2007年 世界武術選手権大会(北京) 太極拳銅メダル・太極剣銅メダル
■ 2008年 北京オリンピック武術トーナメント 太極拳・太極剣総合銅メダル
アジア武術選手権大会(マカオ) 太極剣金メダル
■ 2009年 世界武術選手権大会(カナダ) 太極拳銀メダル
ワールドゲームズ(台湾) 太極拳・太極剣総合銅メダル
■ 2010年 アジア競技大会(広州) 太極拳・太極剣総合銀メダル
世界格闘技大会(北京) 太極拳・太極剣総合銀メダル
■ 2011年 世界武術選手権大会(トルコ) 太極拳銅メダル・太極剣銀メダル
■ 2012年 アジア武術選手権大会(ベトナム) 太極拳金メダル・太極剣銀メダル
■ 2013年 世界武術選手権大会(マレーシア) 太極剣銀メダル
東アジア競技大会(天津) 太極拳・太極剣総合銀メダル
■ 2014年 アジア競技大会(韓国) 太極拳・太極剣総合銅メダル
■ 2010・2014年 文部科学省・国際競技大会優秀者賞
■ 2012年 第61回日本スポーツ賞競技団体別最優秀賞
■ 2015年 金沢区民栄誉賞